厚生労働省の困難女性支援事業で、来年度予算の概算要求から「若年被害女性」の文言が消えた。同省は「事業の趣旨は変わらず、むしろ拡充した」と説明するが、事業の看板を下ろすことで施策が後退しないか。支援関係者からは、心配や憤りの声が相次いでいる。(木原育子)

◆政府の担当者「後退どころか、むしろ拡充した」

 これまで夜間見回りによる相談・面談支援、居場所支援などを行ってきた「若年被害女性等支援事業」を再編し、「官民協働等女性支援事業」(仮称)とする、と記された概算要求資料。対象は「被害女性等」とし、かっこ内に小さく「悪質ホスト被害者、JKビジネス被害者、家出少女、AV出演強要等」と記す。

「若年被害女性等支援事業」の再編を示す厚労省の概算要求の説明資料

 内容をみると、これまでの支援事業を維持し、自立に向け一定期間生活拠点にできるステップハウスや、退所後のアフターケアにも目配りするという。厚労省女性支援室の中村彩子室長は「後退どころか、むしろ拡充した」と胸を張る。  それなのに、なぜ「若年被害女性」の名称をなくしたのか。中村室長は、今春施行の困難女性支援法(女性新法)を挙げ、「法の支援対象は必ずしも若年女性と限定されていない。これまでわかりやすく『若年女性』としていたが、自治体から『若年女性の事業にしか使えないのか』と誤解も招いていた」と説明する。

◆「バッシングに屈したのか」と問うと

 これに対し、若年女性支援団体からは「対象が曖昧になる」と不安の声が上がっている。  そもそも小中高生の自殺者数は高止まりが続く。同省によると、2023年の自殺者数は513人と過去最多の前年と同水準。初めて自殺した小中高生の未遂歴も公表され、女子高校生は男子の2.5倍の37%。女子中学生も男子の2倍近くに達する。  さらに近年問題となってきたのが、若年女性支援団体に対する、ネットでの攻撃的な投稿だ。東京都内で活動する団体「Colabo(コラボ)」は21年度会計で、都からの委託費を不正に処理したなどと交流サイト(SNS)上で批判され、住民監査請求も受けた。「攻撃」は他団体にも飛び火し、各団体でシェルターが特定され閉鎖・移転に追い込まれるなど、支援に支障が出た。

厚生労働省

 コラボ弁護団の神原元(はじめ)弁護士は「ネットの攻撃側が主張していたことは裁判でデマと認定されたが、団体側のダメージは大きく、今も立ち直れていない。若年女性支援の後退があってはならない」と訴える。  今回の事業名称で「国は不当なバッシングに屈したのではないか」と「こちら特報部」が問うと、中村室長は「事実誤認」と突っぱね、「支援団体の誤解がないよう説明していきたい」と述べた。

◆名称変更で「核心部分が随分ぼけてしまった」

 国の事業スキームを使って若年女性支援を行ってきた東京都。バッシング騒動を経て委託事業を補助事業に変更したが、今回の事業名称変更に思わず「国に問い合わせた」という。都育成支援事業調整担当課の六串知己課長は「これまでの支援ができなくなるものではないと確認できた」としつつ「あくまで国の予算。何か言う立場にはない…」と言葉を濁す。  支援団体の一つ、NPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュン代表は「虐待家庭から何とか抜け出しても次は性搾取の闇が待ち受け、被害に遭えば自己責任。若年女性への支援が追いついていないと感じている。『困難女性』とオブラートに包まれ、若年女性は再び声を上げづらくなる」と嘆く。  新法制定に尽力したお茶の水女子大の戒能民江名誉教授(ジェンダー法)は「若年女性とうたわないことで声を上げにくくし、支援の在り方もあやふやになり、その必要性が埋もれる可能性がある」と指摘する。法制定の過程でもきっかけは「若年女性」だったが、弱まった。戒能氏は「法制定で求めた核心部分が随分ぼけてしまった。極めて残念だ」と述べた。 

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