山岳遭難が増えている。昨年の埼玉県内の山岳遭難は94件(107人)で、記録の残る1995年以降でいずれも最多になった。最多更新は3年連続で、遭難者の約3割が1年未満の登山歴だった。実力以上の山に挑む初心者が多いとみられ、日本山岳会埼玉支部は「低い山でも経験者と行くなど、十分な準備をして登ってほしい」と呼びかける。

 県警によると、2019年は50件(59人)だった山岳遭難が、20年は58件(71人)、21年82件(91人)、22年87件(97人)と増えていた。コロナ禍で密を避けるため、アウトドアを楽しむ人が増えた影響があるとみている。

 昨年は、遭難者107人のうち37人は登山歴が1年未満で全体の約29%を占めた。年代別では、70代(23人)と60代(21人)が多いが、20代以下も計22人いた。原因別では、転倒(25件)、滑落(23件)、道迷い(22件)が多い。

 昨年10月に小鹿野町の二子山(標高1122メートル)で60代の女性が滑落死するなど、死者も8人いた。

 日本山岳会埼玉支部の大山光一支部長は、遭難者が増えた背景について、「動画サイトなどインターネット上で得た知識をもとに、軽い気持ちで登ってしまう初心者が増えたのではないか」と話す。

 低い山が多く、都内からのアクセスも良い埼玉には日帰り登山をする人が多く訪れる。だが大山さんは「低い山でもリスクは変わらない。少しの傾斜でも致命傷を負う転倒や滑落につながる。油断と過信が事故のもとになる」と指摘する。「山では天候や体調の急な変化など、不測の事態もありえる。自分の実力を過信せず、山岳会に入ってアドバイスを受けるなど、経験者から学んでほしい」(山田みう)

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 県警は、山に入る前には緊急連絡先や行動計画を記した登山届の提出を求めている。

 登山者が増える連休中の29日朝、棒ノ嶺(標高969メートル)登山口近くのアウトドア施設「ノーラ名栗」(飯能市下名栗)で、県警や消防の職員、県山岳・スポーツクライミング協会の会員ら11人が、登山客に登山届の提出を呼びかけた。

 低山で初心者にも人気な棒ノ嶺でも、昨年、単独で入山した30代の男性が転倒して重傷を負うなどの遭難が6件(8人)あった。遭難が起きた際には、登山届に書かれた情報が警察や消防による捜索・救助活動の要になる。だが、昨年県内であった94件の遭難のうち、登山届を出していたのは30件にとどまった。

 登山届は登山口に設置されている登山ポストや山を管轄する警察署のほか、県警の専用サイト、県警が連携するネットサービス「Compass(コンパス)」や「YAMAP(ヤマップ)」のアプリからも提出できる。

 県警の担当者は「登山届は登山の第一歩。低い山でも気を抜かず、必ず提出してほしい」と話している。(山田みう)

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