女性の問題を前面に出したNHK連続テレビ小説「虎に翼」が9月で終わった。私は58歳男性で、耳が痛い場面が多くて嫌になってもおかしくないはずだが、最後まで面白く見られた。脚本の吉田恵里香さんが掲げた、女性も男性も分け隔てなく扱うという姿勢が、ドラマ全体に反映されていたからだと思う。  吉田さんは、主人公・寅子(ともこ)=伊藤沙莉(さいり)=の口癖「はて」を対話の糸口として考えたという。ドラマは男性に「女性の正論」を迫るのではなく、結婚への違和感や生理などの見えにくい女性の問題を挙げ「一緒に考えて」と呼びかける姿勢を貫いた。繰り返された寅子と桂場(松山ケンイチ)の対話は、女性と男性が話し合うことの大切さを象徴した場面だろう。  男性が多いドラマの制作チームも、脚本に共感しやすかったのではないか。それが形になった例が、ドラマの第1週で、戦前戦後の登場人物たちの背景で登場した、重そうな荷物を背負って橋を渡ったり、道ばたに座り込んだりした何人もの女性たちの姿だろう。脚本に書かれていない部分だが、苦しみ、悩む女性たちに寄り添うというドラマのテーマを端的に示した。  吉田さん以上に制作チームが思い入れを込めた登場人物が、大学で女学生たちに嫌がらせした小橋=名村辰(しん)=だ。吉田さんもスタッフの「愛」を感じ、寅子の裁判所の同僚として再登場させる。家裁を見学に来た男子中学生が「女性は働かなくていい。そっちが得だ」と言い放った時、小橋は「できる男だけでなく、できる女にも比べられているんだろう?頑張らなくていいのに頑張る女たちに無性に腹が立つよな」と不満を受け止め、前を向くように諭す。  放送されなかったが、女性と男性を分け隔てなく扱う吉田さんの考えが表れたセリフもある。仕事に打ち込む寅子が家族ともめた場面で、兄嫁の花江=森田望智(みさと)=が「今のトラちゃん、大嫌いだった、周りをスンっとさせる、おじさんたちと一緒よ」と指摘する部分だ。意図は伝わるとして、放送時間の関係でカットされたという。  ドラマには、男性を戒める部分もある。その最たるものが最終盤で取り上げた、父親に何度も妊娠させられた実の娘が、思い余って父親を殺す事件だろう。実際の事件がモデルで、吉田さんは「こうした事件は今も起こっている。苦しむ人が減らなくてはいけないという思いも込めて取り上げた」と意図を明かす。  最終回では、第1週で登場した、苦しむ女性たちが渡った橋の平成時代の様子が描かれた。寅子の娘の優未(川床明日香)が女性に話しかける背後で、高齢男性がすたすた歩き、その後を多くの荷物を抱えた高齢女性が懸命についていく姿が映った。時代は変わっても、男女の関係はあまり変わっていない。これは制作チームによる男性への戒めだろう。(文化芸能部)


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