昨年の法改正で大規模な国立大に設置が義務付けられた「運営方針会議」を巡り、京大職員組合が17日、同会議の委員の構成案などに異議を唱える声明を発表した。学外委員の半数以上を財界人が占めることなどから、記者会見したメンバーは「大学の重要な意思決定をあたかも政府と財界に委ねるもの」と批判した。(宮畑譲)

◆「運営方針会議」設置を義務付け

 運営方針会議は、昨年12月の改正国立大学法人法の成立で、収入・支出や学生数が多い国立大に設置が義務付けられた。東北大、東大、東海国立大学機構(岐阜大と名古屋大)、京大、大阪大の5法人が対象で、法律の施行は今年10月1日となっていた。  委員の任命には、文部科学相の承認が必要となるため、各地の大学教員らから「政府の介入が強まる」との声が上がり、改正法に反対する団体の呼びかけに4万以上の署名が集まった。  京大では先月10日の部局長会議で、運営方針会議の委員案などが提示された。

◆委員に現役教授が入っていない

 委員案では、計11人の委員は6人が学外、5人が学内。学外委員のうち4人は財界人で占められた。学内委員のうち学長を除いた4人は大学の理事で、そのうち1人は文科省からの出向者となっていた。

会見する京大職組のメンバー=ビデオ会議システム「Zoom」の画面から

 学外委員案では、NTT社長などを歴任し、現在経団連副会長を務める澤田純氏や、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長などを経て、現在は三菱重工社外取締役の平野信行氏などが挙がっていた。  職組中央執行委員の駒込武教授(教育史)は「運営方針会議は学長選挙も左右するが、学内委員に現役教授が入っていない。理事といっても学生と接しているわけではない。あまりにも偏っている」と批判する。

◆国の財政支援を得るために必須

 さらに職組は、大学側が「国際卓越研究大(卓越大)」の認定を申請した場合、運営方針会議の権限が強まることを問題視する。卓越大は政府が基金から出た運用益で財政支援する仕組みで、東北大が昨年、認定候補第1号に選ばれた。  今年3月、内閣府が開いた有識者議員懇談会で、卓越大に求められるガバナンス体制について話し合われた。そこで配布された資料には、「学長の決定に先立ち、学長が主体的に運営方針会議に対し、体制強化計画に関する議決を求めること」を認定要件とすることが示された。  つまり、国からの財政支援を得られる卓越大を目指す場合、大学運営に運営方針会議の議決が必要となる。職組は「会議が大学の統治体制を自由に左右できてしまう。卓越大と結び付くと、学長を超えた権限主体に転化する」と危惧する。  「政府や与党、財界の意向に『主体的』に従属してしまったならば、教職員の労働環境を今後さらに悪化させ、学生の福利厚生をさらに切り詰め、市民社会に対する門戸をさらに固く閉ざすことになる」。声明でこう非難した職組は、学外・学内委員を同数とし、経団連など財界の現職役員は含めないことや、卓越大への申請を断念することなどを求めている。

◆「大学の自治、研究を凍えさせてしまう」

 職組中央執行委員長の細見和之教授(ドイツ思想)は「このままでは政府・財界が一方的に大学を支配し、大学の自治、研究を凍えさせてしまう。どうにかして阻止していきたい」と語気を強めた。  副中央執行委員長の大河内泰樹教授(哲学)は、この問題は大学だけでなく、社会全体に通じると強調する。  「今、日本全体が経済の論理に支配されつつある。社会が正しい方向に向かっているか、政策が科学的な知見に基づいているか。自由な議論の場が確保されているからできる。その機能は奪われつつある」 

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