能登半島地震で被災した石川県輪島市の中島酒造店の蔵元杜氏(とうじ)と、設備を貸し出している同県小松市の東酒造の杜氏が共同で新たな酒を仕込んでいる。2人の杜氏が同じ蔵で製造計画を練り、酒を開発する異色の挑戦。中島酒造店の蔵元杜氏中島遼太郎さん(35)は「新しいことができる環境に感謝。かわいそうな蔵元というイメージを拭い去って、新しい一歩を踏み出したい」と意欲的だ。

◆17年前に建て直した蔵が今年の地震でまた倒壊

 150年以上の歴史がある中島酒造店は17年前の地震で蔵が全壊。今回、建て直した蔵が倒壊した。苦境を耳にした東酒造が手を差し伸べた。同県珠洲市出身で東酒造の杜氏、二見秀正さん(48)は「委託醸造は大手がやってくれる。うちは本人が造れる形で迎えたかった」と話す。  中島さんは倒壊した蔵から米を取り出し、2月から蔵を借りて酒造りを再開。3月末には代表銘柄「能登末廣」の初搾りを迎え、販売にこぎ着けている。

◆「能登末廣」の香り高さと「神泉」のキレの良さ

協力して仕込む酒の様子を確認する中島遼太郎さん(左)と二見秀正さん=石川県小松市で

 今までにない酒を造ろう―。2人の杜氏が共同で新たな酒を開発する企画は、東酒造の東祐輔社長(52)が発案した。通常酒蔵では、ただ一人の杜氏が酒造りの全てを差配。今回は中島さんと二見さんが共に製造計画を練り、もろみやこうじの温度管理について話し合ってきた。能登末廣の香り高さ、東酒造の代表銘柄「神泉」のキレの良さ、互いの特長を生かした酒を追求した。4月22日にしぼり出し作業の日を迎えた。  9年前に父をがんで亡くし、26歳で杜氏になった中島さん。「ずっとかわいそうな蔵元というイメージが付きまとってきた。今は逆にチャンスと捉えて発信していきたい」と意気込む。(久我玲) 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。