自分以外の誰かの視点に立つのは難しい。東京新聞にマイナ保険証取材班ができた今年5月、記事掲載とともに意見を募集すると、全国から数百通に上るメールや手紙が届いた。  高齢者や障害者とその家族、福祉施設の職員、医師や薬剤師、DV被害者、エイズウイルス(HIV)感染者、海外駐在員…。立場が違えば、制度を見る視点も違う。自分にない視点に驚き、時に悲しみ、悩んだ。

◆寄せられた声、特に困っている人の視点を大切に

マイナンバーカード=一部画像処理

 マイナ保険証の利用に「何も困っていない」という人もいれば、認知症の母の介護で30分しか家を空けられず「どうやって(マイナンバーカード取得の)手続きができるのか」と嘆く人も。はがきには「死にたい気持ちを抑えて生活している」とつづられていた。  自分の視点だけで見ても、今の自分にとっての善しあししか分からない。社会や将来の自分にとってどうかを考えるには多くの視点が必要だ。取材班は特に、困っている人の視点を大切にしている。問題を理解し、どうすれば良くなるかを一緒に考えられるからだ。  6月に薬局の動きを取り上げたのも、窓口職員が「マイナ保険証の利用の呼びかけを強いられるが、実際に出されると受け付けに時間がかかり、業務が滞るので困っている」と、声を届けてくれたためだった。

◆さまざまな視点から見た景色を届ける

東京本社デジタル編集部・戎野文菜

 政府は「誰ひとり取り残さない、人に優しいデジタル化」を掲げている。この困難な目標を実現するためには、全ての人の視点を大切にしなければならない。  私たちにできるのは、さまざまな視点から見た景色を届け、問題を共有し、より良い選択に役立ててもらうこと。9月に始まったシリーズ「検証マイナ保険証」でそれをかなえたい。 

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