世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を、文部科学省が請求してから13日で1年になる。教団側は争う姿勢で、東京地裁で非公開の審理が続いている。教団による高額献金や霊感商法の被害救済に取り組む弁護団は、教団側による「財産隠し」を懸念し、早期の命令に期待する。「宗教2世」の救済策なども不十分として、国に法整備を求めている。(三宅千智)

◆経典セット、絵画、つぼ、印鑑

旧統一教会から被害者に販売された「聖本」(中央)などを前に話す阿部克臣弁護士=9日、東京都千代田区で(河口貞史撮影)

 「これは元信者が教団から3000万円で購入した『聖本』です」。全国統一教会被害対策弁護団の事務局次長、阿部克臣弁護士(45)が東京都内の事務所で、約1300ページの分厚い本を手にした。7000万円の多宝塔や430万円の経典セット、絵画、つぼ、印鑑…。こうした物品を購入するため、親戚や消費者金融から借金したり、土地を売ったりする信者もいるという。  文科省が昨年10月に解散命令を請求した以降も、弁護団への相談は相次いでいる。これまで元信者ら171人が計52億円の賠償を教団側に求める民事調停を地裁に申し立てたが、阿部弁護士は被害者の一部に過ぎず「潜在的な被害は、はるかに大きい」と話す。

◆解散命令の「請求」から1年、司法の判断はいつ示される?

旧統一教会の「聖本」には文鮮明総裁のサインと思われるものが掲載されている=9日、東京都千代田区で(河口貞史撮影)

 解散命令請求を受け、東京地裁では今年2月、文科省側と教団側の双方から意見を聞く「審問」が開かれた。判断がいつ出るかは不明で、地裁の判断が出ても、高裁、最高裁でも争え、確定時期は不透明だ。  ただ、阿部弁護士は「来年には命令が確定するのではないか」とみる。  根拠に挙げるのは、解散命令請求に向けた質問権行使で教団側が回答を拒否したとして、過料10万円の支払いが確定した8月の東京高裁決定だ。教団に「解散命令の要件に該当する疑いがあった」と判断した。あくまで「疑い」を認定したに過ぎないものの、阿部弁護士は「過料事件の延長線上で解散命令が出るはずだ」と話す。  教団の高額献金を巡っては、最高裁が7月、元信者が残した「献金の返還は求めない」との念書を「無効」と断定した。阿部弁護士は「救済への道が開ける判断。教団に厳しい姿勢で臨む司法の態度が固まってきた」との見方を示し「多くの被害者の望みは、一刻も早く解散命令を確定させることだ」と語る。

◆財産隠しの恐れ…「韓国に現金を運んでいる」との情報も

旧統一教会から被害者に売られた「聖本」に掲載されている文鮮明総裁、韓鶴子総裁御夫妻の写真

 一方、命令が確定して教団財産の清算手続きに入るまでの間に、教団が財産隠しに走る可能性が指摘されている。教団が信者を使い、現金を韓国に運ばせているという情報も弁護団に寄せられているという。弁護団は、昨年施行の不当寄付勧誘防止法では信者家族への救済が十分できないなどとして、家裁の監督下で信者本人に代わって献金を取り消し、財産を管理できる制度の設置など同法の見直しを求めている。  阿部弁護士は「まだまだこの問題は道半ば。救済や被害抑止に向け、国には責任を持って取り組んでほしい。清算人の権限強化など法整備も必要だ」と強調した。

 解散命令請求 宗教法人法に基づき、文部科学相や都道府県知事らが、特定の宗教法人に解散命令を出すよう裁判所に求める手続き。命令が確定すると宗教法人は法人格を失う。任意の団体として活動できるが、お布施などの収入が非課税になるといった税制上の優遇措置が受けられなくなる。法令違反を理由に解散命令を受けたのは、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教など2例。

旧統一教会から被害者に売られた「聖本」(手前右)など。後方は経典などを入れる「天福函」=東京都千代田区で(河口貞史撮影)



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