1966年に静岡県であった一家4人強盗殺人事件を巡り、再審無罪が確定した袴田巌さん(88)の弁護団は11日、最高検を訪れ、控訴断念とともに静岡地裁判決への不満を表明した畝本直美検事総長の談話の撤回を求めた。  一方、牧原秀樹法相は同日の閣議後記者会見で袴田さんに「大変申し訳ない」と述べながらも、総長談話が袴田さんを犯人視しているとの弁護団などの批判は「当たらない」として検察を擁護した。

【全文】畝本検事総長の談話

袴田さん再審無罪に「判決は到底承服できない」「強い不満」


◆直接謝罪、捜査の検証も求める

 弁護団の抗議・要請書は「総長談話は極めて不当」とした上で、畝本総長に、
(1)談話の撤回
(2)袴田さんへの直接謝罪
(3)自白を強要する取り調べや証拠の捏造(ねつぞう)など冤罪(えんざい)を作った原因を明らかにし、二度と繰り返さないため捜査、公判手続き全般の厳正で真摯(しんし)な検証
を求めた。

総長談話を批判する小川秀世事務局長

 小川秀世事務局長は東京都内で日本弁護士連合会が開いた臨時記者会見に参加し、談話について「袴田さんが犯人だと言っているに等しい表現が多々ある。名誉毀損(きそん)に該当する恐れもある」と指摘。「はっきりと裁判所に捏造を認定されても、それに対する反省の弁がなく、検察官に検証を委ねることは難しい」とし、冤罪を生んだ原因について第三者機関による調査が必要との見解を示した。

◆法務大臣は「謝罪」しつつ「擁護」も

 牧原法相の会見はこれに先立ち行われ「相当の長期間にわたって袴田さんが法的に不安定な地位に置かれたという状況については大変申し訳ない気持ちだ」と述べた。総長談話の「袴田さんは相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれた。刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っている」と似た表現で謝罪の意を示した。

閣議後記者会見で説明する牧原秀樹法相

 一方、総長談話を弁護団が批判していることには「検察は無罪判決を受け入れている。(袴田さんを犯人視しているという)意見は、私は当たらないと思っている」と述べた。  ある検察幹部は東京新聞の取材に「検察が今後、袴田さんを犯人と言うことは絶対にない」と話し、別の幹部は「袴田さんを犯人視していない」と答えた。(三宅千智、加藤益丈)    ◇

◆「死刑廃止、再審法改正に取り組む」と日弁連会長

 袴田巌さんの再審無罪確定を受け、日本弁護士連合会は11日、東京都内で臨時記者会見を開き、渕上玲子会長が「死刑制度の廃止と再審法の速やかな改正に従前にもまして力強く取り組む」と強調した。

臨時記者会見で「死刑制度の廃止と再審法の速やかな改正に従前にもまして力強く取り組む」と述べる渕上玲子会長

 渕上会長は、袴田さんが長期にわたり身体拘束を受け、拘禁反応が回復していないと指摘。「刑事司法の制度的、構造的問題によるもので容認できない」と述べた。  袴田さんの姉ひで子さん(91)も浜松市の自宅からリモートで会見に参加し、「巌だけが助かれば良いとは思っていない。冤罪で苦しんでいる方が大勢いる」と語り、再審法の速やかな改正を求めた。(三宅千智)

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