死んだ後の自分の体を社会のために役立てたいと、「献体」を希望する人が増えている。献体は医師を目指す医学生の解剖授業などに使われるが、半世紀の間に登録者が大きく増え、今は必要な解剖体のほぼ全てに献体が充てられている。社会貢献を望む人や医療技術の恩恵を受けて恩返ししたいという人が多いほか、家族が小規模化し同意を取りやすくなっていることが背景にある。(大島晃平)

◆「私の体を医療のために役立てて」

 「社会のためになることを大してやってこなかったから、私の体が医療のためになるなら登録したい」  献体を希望する東京都大田区の団体職員の60代女性は動機をこう話す。公務員として長年広報などの仕事に関わり、今は別の職場で趣味も楽しみながら週3日働く。  仕事ではやりたいこともやってきたが、時間的余裕ができると「自分の人生は何だったのか」とふと思い、人生の意義付けをしたくなった。社会のためになるボランティア活動をしたいと、受刑者と手紙をやりとりする団体に登録したり、地域の清掃に関わったり。  以前から知っていた献体も、ボランティアの一つとして登録したいと考えるようになった。図書館で献体に関する文献を探し、自宅近くの大学に資料を請求した。独身で家族は2つ年上の姉と母だけで、登録に必要な同意は得られる見込みだ。  献体を希望し、大学などに登録する人は50年ほど前から大きく増えた。解剖実習には献体のほか、刑務所で病死した服役者や、大学関連の病院で亡くなった身寄りのない人の遺体が使われる。

◆医療の進歩を実感、家族の同意も得やすく

 公益財団法人日本篤志献体協会によると、1969年度には全国の大学などで1658体の解剖がなされ、そのうち献体登録者の遺体は約4分の1にあたる404体が使われた。1990年代ごろからは献体の割合が大きくなり、2023年度には3560体の解剖のうち、献体は3549体で99%を占めた。  登録希望者の年代は幅広く、30代や40代で登録する人もいる。広報活動はほとんどしていないが、知人からの口コミなどで知り、登録する人が多いという。

献体の意義について語る日本篤志献体協会の坂井建雄理事長=東京都文京区の順天堂大学で

 同協会の坂井建雄(たつお)理事長は、希望者が増えた理由として「1990年代頃からCTやMRIなどの画像診断によってがんなど多くの病気を治せるようになった。医療に救われたと感じる人が増え、恩返しをしたいと献体の希望者が増えたのだろう」と分析。「登録には家族の同意が必要だが、家族のサイズが小さくなった分、同意も得やすくなっている」と話す。    ◇

◆生前の病気や手術は影響なし、遺骨は数年で返還

 献体を望む場合は、住んでいる都道府県にある医科や歯科のある大学か献体篤志家団体に連絡する。本人が亡くなった後、遺族が手続きするため、登録時には親族の同意が必要。同居別居を問わず配偶者と親、子、兄弟姉妹の承諾を得る必要がある。  遺族は登録者が亡くなった時、献体登録証に記された連絡先に伝える。

献体について書かれたパンフレット

 大学に送られた遺体は解剖実習後に火葬され、遺族に遺骨が返還される。返還は亡くなってから2〜3年後のケースが多い。近年は医学生の実習のほか、外科医の技術向上や、看護師など医師以外の医療従事者による解剖実習にも役立てられる。  献体登録しても、事故などで体が損傷した場合や、旅行先など遠方で亡くなり遺体を大学に送ることが難しい場合などは実行されない。生前の病気や手術はほとんど影響しない。 

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