軍事転用可能な機械を不正輸出したとする外為法違反罪の起訴が取り消された機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(75)らが、東京都と国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審口頭弁論が9日、東京高裁であった。警視庁公安部に当時所属していた警察官が証人尋問に臨み、捜査の進め方について「日本の安全を考えたものではなく、決定権を持つ人の欲だと思う。問題があった」と述べた。

◆「法令無視しているような恥ずかしい話」

 この警察官は当時、輸出規制を所管する経済産業省の職員との打ち合わせに参加し、やりとりを記したメモを作成していた警察官の1人。メモには、輸出規制の要件を巡る公安部の独自解釈に否定的だった経産省職員が、容認に傾いていく様子のほか、同社への家宅捜索で別の容疑を見つけてほしいと警視庁側に要望したことが記されていた。  この日の尋問で、同社側の代理人弁護士から「密約のように見える」と問われると、この警察官は「法令を無視しているような恥ずかしい話」と話した。

東京高裁が入る裁判所合同庁舎(資料写真)

 さらに、経産省が公安部の解釈に理解を示し始めた背景として「公安部長が経産省にお願いしたと考えている。当時の自分の上司が『どうにもならないので空中戦をやってもらうしかない』と言っていたし、経産省側からも『部長の話は聞いている』と言われた。圧力をかけたってことです」と証言した。  また、勾留中に胃がんが判明し、保釈されないまま死亡した同社元顧問の相嶋静夫さんを取り調べた別の警察官が都側の証人として出廷した。相嶋さんの長男(50)から謝罪しないのか問われ「謝罪ではないが、お悔やみ申し上げる。ただ、捜査自体は適正だった」と話した。  閉廷後、代理人の高田剛弁護士は「経産省の捜査メモの存在を作成者が認めたことで、信用性は極めて高くなった。捏造(ねつぞう)の構図を裁判所が認定できる立証ができた」と強調した。(井上真典)

 大川原化工機を巡る事件 警視庁公安部が2020年3月、国の許可を得ずに噴霧乾燥機を中国に輸出したとする外為法違反容疑で、大川原正明社長ら3人を逮捕し、東京地検が起訴したが、2021年7月に取り消した。1年近く身体拘束された社長らが逮捕・起訴は違法として東京地裁に起こした国家賠償訴訟の証人尋問で、捜査担当の警察官が事件を「捏造(ねつぞう)」と証言。昨年12月の地裁判決は捜査の違法性を認め、国と都に賠償を命じた。原告、被告双方が控訴。東京高裁での審理は、12月25日に結審予定。



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