石川県の能登地方を襲った記録的豪雨で自宅の1階が浸水し、2階部分で生活を続ける垂直避難者が増えている。自宅から距離がある避難所に比べ、泥かきなどの復旧作業がしやすいのが主な理由だが、1階から舞い上がる粉じんで体調不良を訴えたり、台所が使えず食事が偏ったりする人も。仮設住宅への入居は見通しが立っておらず、終わりの見えない「2階暮らし」に住民からは不安の声が漏れる。(柴田一樹)

◆家の中で粉じんが舞い、マスクが欠かせない

 近隣の河原田川が氾濫し、多くの床上浸水被害が出た輪島市河井町。「下りてきちゃダメ。2階におって」。知人の大工とともに自宅1階の泥をかき出していた河上久美子さん(40)が、様子を見に来た小学生の息子を注意した。床下の泥をかきだそうと床板をはがすたび、室内で土ぼこりが顔の高さまで舞った。  小学1、3年の息子と夫との4人暮らし。豪雨があった9月21日は泥水の水位がみるみるうちに上昇し、床上1メートル以上まで漬かった。自宅は築4年。一部損壊となった能登半島地震と同じく、今回も修繕して住み続けるつもりだ。修理中は2階で生活を始めたが、1階からの粉じんと汚臭で、自身や息子はせきが止まらなくなった。家の中でもマスクが欠かせなくなった。

畳や床板がはがされた1階を見渡す被災者。昼は1階で片付けをして、夜は2階で暮らしている=石川県輪島市河井町で

 「子どもたちも狭くてストレスがかかってるし、体調が心配」と河上さん。「長くここにはいられない」と仮設住宅への入居を市に申請したが、入居要件の基準となる被害認定調査も含め、今後の予定は決まっていない。行政には「地震があった上で起きた水害ということを踏まえ、手厚い支援がほしい」と訴える。

◆冷蔵庫も故障、食材保存はクーラーボックス

 小学生と園児の娘や夫との4人家族の梶寿世(ひさよ)さん(41)は同市東中尾町から河井町の借り家へ引っ越した1カ月後、豪雨で床上浸水。2階暮らしを余儀なくされた。キッチンは使えず、自炊はカセットコンロで卵を焼く程度。冷蔵庫などの家電もほぼ全て故障したため、食品保存はクーラーボックスが頼り。生ものは保存できず、梶さんは「どうしてもメニューが偏ってしまう」と悩ましげだ。  避難所への一時的な転居は「ここをほっとくわけにはいかないし、片付けが進まない」と考えていない。仮設住宅の入居申請は済ませたものの、年内の入居は諦めている。「地震の時はみんな同じ被害に遭ってたから団結感みたいなものがあったが、今回の水害は局所的。全員には共感されにくいのがつらい」と嘆く。   ◇

◆入居時期は未定…仮設住宅の課題は

 石川県輪島市や珠洲市などは能登豪雨で自宅が被災した住民を対象に、仮設住宅の入居を受け付けている。ただ両市の担当者によると、入居時期は未定。洪水や土砂災害などの危険を考慮した用地確保が建設の課題になっているという。  両市によると、入居は能登半島地震と同じく、罹災(りさい)証明書で半壊以上となった住民が対象。国の基準によると、水害では床上10センチ以上の浸水は半壊とみなされる。水道や電気などライフラインの途絶も入居要件の一つになっている。  罹災証明書を発行するための被害認定調査は、両市ともに4日から始めた。 

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