◆15歳で相撲部屋に入門、4年後「相撲はできない」と言われ…
パーソナリティーとして働く木村翼さん(手前)と母親の美乃さん=横浜市金沢区で
横浜市出身で、小学生の頃から柔道をやっていた。素質を見込んだ北の湖部屋の誘いで、中学卒業後に15歳で入門した。「翼湖(つばさうみ)」のしこ名で幕下まで昇進し、十両を目指していた19歳の時、健康診断で心臓に異常な数値が出た。自覚症状はなかったが、検査を受けた病院で拡張型心筋症と診断された。「相撲はできない」と言われたショックで、その日の記憶がない。◆医師に止められても「土俵で死ぬ」、その言葉に母は
角界に入ったのは、関取になって稼ぎ、親孝行するためだった。だから、医師に止められても「土俵で死ぬ」と一度は両親に告げた。母親の美乃(よしの)さん(60)から「一番の親不孝は親より先に死ぬことだよ」と諭され「生きよう」と思い直した。木村さんが緊急時のためにいつも持ち歩いているカード=横浜市金沢区で
土俵に戻れないまま、20歳で引退。飲食や水道工事の仕事に就いた時期もあった。病気には根本的な治療法はなく、30歳になる頃、体調が悪化して働けなくなった。医師に促されて心臓移植を希望する登録をし、2020年5月に補助人工心臓を装着した。 日常生活を送れるようになったものの、当時は機器の不具合などに緊急対応する必要から、常にケアギバー(介護者)の親と一緒にいなければならなかった。機器は水に弱く、ビニールで覆ってシャワーを浴びる。湯にはつかれない。専用のかばんで持ち歩くバッテリーなどは重さ約2.5キロで肩が凝る。「不便は常に思う。でもそれが不幸につながるわけじゃない」◆「話すのがうまい」と紹介され、地元コミュニティーFM局に
障害者の就労継続支援施設に通っていた頃「話すのもうまいし、もったいない」と、地元の市職員が人づてに紹介したのが、2022年にできたばかりの金沢シーサイドFMだった。「送迎だけでも」のつもりで共に働き始めた美乃さんと2人、この4月からパーソナリティーになった。 補助人工心臓の基準が変わり、同じ4月からは研修を受けたサポーターが職場にいれば、ケアギバーと離れることも可能に。スタッフ3人が研修を受けた。周りの人に恵まれ、人生を楽しむ木村さん。「一番しんどかった時は、明日がどうなるか分からなかった。今は、明日は来ると思える」 ◇◆心臓移植の希望登録者835人、5年以上の待機者は3割超
日本臓器移植ネットワークによると、全国の心臓の移植希望登録者は8月末現在で835人、待機期間は5年以上が270人に上り、長く待たされる傾向を示す。1997年10月の登録開始以降、国内で実施された心臓移植は892件で、昨年は115件だった。 植え込み型補助人工心臓は以前、心臓移植の適応患者のみが待機中に装着できたが、機器の性能向上もあり、3年前から心不全の治療として保険適用される。 日本心不全学会の絹川弘一郎理事長によると、最新機器では不具合がほぼなく、5年生存率も8割を超える。だが装着者の就労状況のデータはなく「職場の理解も必要で、働いている人は少ないとみられる。個別状況にもより一概に言えないが、専門職でなければ復職は割と難しい」と話す。 ◇ <連載 生きるって> 街のどこかで、きょうも力強く生き抜く人たち。その姿を随時伝えます。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。