米大統領選の民主党候補カマラ・ハリス副大統領が「大統領にふさわしい曲は」と問われて選んだ曲がある。国中の人々が一つになり踊る情景を描いた「ワン・ネイション・アンダー・ア・グルーヴ」。曲の作者でファンク界の帝王ジョージ・クリントン氏(83)が9月、ツアーで来日した。半世紀以上、第一線に立つレジェンドは何を思うか。「こちら特報部」の取材に応じた。(北川成史)

表情豊かに語るジョージ・クリントン氏=東京都内で

◆ハリス氏が推した「ワン・ネイション」

 「とてもいい気分だよ」。音楽好きのハリス氏が以前、テレビの企画で「ワン・ネイション…」を選んだエピソードへの感想を聞くと、クリントン氏はほおを緩めた。  クリントン氏は1941年、米ノースカロライナ州生まれ。50年代半ばにドゥーワップと呼ばれるコーラスのグループを結成し、70年代以降、ソウルやジャズなどの要素を盛り込んだファンクの第一人者として活躍する。「ワン・ネイション…」は同氏率いる「ファンカデリック」が78年に発表した代表曲だ。  今回の来日中、5日間で3都市でのステージをこなし、クリントン氏は総勢10人以上のバンドでボーカルを務めた。そのエネルギーはどこから生まれるのか。

◆「音楽の変化」に自分の人生を重ね

 「好きだからさ。音楽が。それが変化し、成長していくのが」。そう答え、ポピュラーミュージックの歩みと人生を重ねた。  「エルビス・プレスリーやチャック・ベリーが登場し、ロックンロールが生まれたころ、俺は音楽を始めた。そして60年代になるとスモーキー・ロビンソンらモータウン・サウンドの全盛期さ。そうした一部に自分もいた。音楽に人生をかける動機として十分だね」

音楽への愛を語るジョージ・クリントン氏

 次世代とのつながりも活動を支えている。クリントン氏は自身の曲をヒップホップのミュージシャンらが取り込む(サンプリング)のを許容した。交流の輪が広がり、共演を重ねた。その中にはパリ五輪閉会式に登場したドクター・ドレー氏やスヌープ・ドッグ氏もいる。

◆世界はもっと一体感を持つべきだ

 米国ではハリス氏とドナルド・トランプ氏が争う大統領選が11月に迫る。トランプ政権以降の社会の分断を懸念するクリントン氏はハリス氏を支持するという。「世界はもっと一体感を持つべきだ。カマラならきっと実現できる。だから、テイラー・スウィフトやさまざまな人が彼女を応援している」  日本では著名ミュージシャンが政治的立場を示す例は少ない。クリントン氏は歪曲(わいきょく)された発言が拡散されかねないネット社会の問題に触れつつ「米国でも政治的な意見を表さないミュージシャンは多い。自分も大抵の場合は政治と距離を置こうとしている」と話す。

◆言わないと手遅れになってしまう

 その上で「政治によって自分や家族が影響を受けたり、憎しみがまき散らされたりしている時には、何か言わなければならない。そうしないと手遅れになってしまう」と強調する。

表情豊かに語るジョージ・クリントン氏=東京都内で

 ファンクは自由で多様性のある音楽だ。クリントン氏はトランプ氏について皮肉交じりに言う。「彼にはファンクが必要だ」。そして力を込める。「1%の人間(超富裕層)が世界中の富を持っている。やりすぎだ。あちこちで人々が飢えているのに。全ての人に公平な世界であるべきだよ」

◆102歳になってもファンキーでいたい

 自身の曲に絡めてこう願う。「『ワン・ネイション』が広がって『ワン・プラネット・アンダー・ア・グルーヴ』になる必要がある。競争し、出し抜こうとする人間の習性を乗り越えるためにね」  身ぶりを交えて話し続けるクリントン氏。インタビューの最後、年齢を意識しないかと聞くと笑った。  「朝起きた時は83歳だと感じるよ。マッサージもしてもらっている。でも夜、ステージに上がると、21歳か22歳のころと同じように観客が楽しんでいるのが見える。気持ちがいいんだ。だから102歳になってもファンキーでいたいね」


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