<シリーズ 検証マイナ保険証> マイナ保険証への不安や不信感から、東京新聞には「利用登録を解除したい」という問い合わせが後を絶たない。政府は10月から解除に応じるとしているが、「まだシステムのテスト中」として開始日すら決まっていない。 「通常ならありえない」。現行の健康保険証の12月廃止に向けた準備に追われている健康保険組合からは、いまだに具体的な連絡がないことに困惑の声が上がる。(福岡範行)

◆カード取得は任意、でも解除不可だった

利用登録の解除とは、マイナンバーカードにひも付けた健康保険証の情報を解除することだ。 これまでは、他人の情報をひも付けるなどの誤登録時に限られていた。つまり、マイカードの取得自体は任意なのに、マイナ保険証は、いったん登録すると解除できない仕組みになっていた。

◆政府からの通知、2月以降なし

政府は、2023年8月になって登録解除の機能を追加すると決めたが、解除の申請を受け付ける健康保険組合や自治体には、2024年2月の文書通知を最後に8カ月近く詳しい説明がないという。 2月の通知では、開始時期を「10月末めど」と案内。おおまかな手続きの流れは記されたものの、具体的な運用や注意点までは明らかになっていない。

◆開始日も分からず周知すらできず

健保からすれば、これでは身動きが取れない。開始日も不明で、加入者への周知もままならない状況だ。

マイナ保険証の利用登録の解除について書かれた2024年2月の通知

「もう10月なのに通常ならありえない。準備作業を考えると厳しいが、間に合わせるしかない」。神奈川県内の健康保険組合の担当者は、疲れた様子で、こうこぼした。 この健保では、12月の現行保険証廃止に向けたシステム導入も終わっていない。マイナ保険証移行への業務が重なり、現場の負担は増える一方だ。 健保の担当者からは「推進策はうるさいくらい指示してくるのに」と政府への恨み節も聞こえる。

◆「直前になり負担かけた」厚労省は釈明

2023年に大量のひも付けミスが発覚した際には、マイナンバーカードの返納が急増した。東京都内の健保の担当者は「どのくらい解除の申請があるか読めないが、問い合わせは増えるのでは」と不安がる。

マイナンバーカード(一部、画像処理)

「マイナ保険証ではいつものこと。連絡を待つしかない」(東京都内の自治体の担当課長)と投げやり気味の声も漏れる。 厚生労働省の医療介護連携政策課の担当者は「早めに周知できればとは思っているが、直前になり保険者に負担をかける形になってしまった」と釈明しながらも、通知時期は未定という。

◆解除は「政府にふざけるなの意思表示」

「76歳なので紛失が心配。マイナポイントを返還してもいいから解除したい」 「現行保険証の廃止を進める政府に、ふざけるなの意思を示したい」 東京新聞には、読者から、こうしたマイナ保険証の登録を解除したいという声が届く。

マイナ保険証の登録解除を希望する男性。紛失への不安が強まったという=東京都大田区で(一部画像処理)

ところが、10月が迫っても国から案内がないことに解除を希望する人たちも、いらだちを覚えている。 ある読者は、次のようなメールを送ってきた。 「まるで意地悪をされているような感じで腹立たしい」

◆開発段階では解除を想定していた

そもそも、利用登録の解除が最初からできていたら、混乱は抑えられたはずだ。 紛失への不安から解除を希望する東京都大田区の50代の男性は「利用が任意なら、普通は解約ができる」と疑問視する。 実際、マイナ保険証の基幹システムの開発段階では、仕様書にも登録解除の機能が盛り込まれていた。

2019年4月に示されたマイナ保険証の基幹システムの仕様書。求める機能として「ひも付け解除」が盛り込まれていた

ところが、2021年10月に本格運用が始まったシステムには、解除の機能が省かれていた。

◆ひも付けミス多発で対応一変

いったんマイナ保険証に登録すると解除できないという事実は、翌22年になって国会で表面化する。 厚生労働省の日原知己審議官(当時)は、「登録によって利用は強制されるものではない」「取り消しができなくても不利益は生じない」として、解除機能は不要と強弁した。 風向きが変わったのは、2023年春に発覚した相次ぐマイナ保険証のひも付けミスだった。 マイナ保険証に対する国民の不信や不安を背景に国会での追及はやまず、コールセンターにも解除の要望が届いた。解除に後ろ向きだった政府は、軌道修正を余儀なくされた。

◆ここでも泥縄式の対応、ツケは現場に

後付けの登録解除は、これまでもマイナンバー事業で繰り返されてきた政府の泥縄式の対応そのものだ 国会で追及した芳賀道也参院議員(無所属)は、取材に「細かなことの検討なしに進めているのは明らか。混乱のツケを負うのは、忙しい健保や医療の現場だ」と、政府の見通しの甘さを批判する。 解除の申請開始が24年10月になった理由について、厚労省の医療介護連携政策課の担当者は「システム改修や(健康保険組合など)保険者の準備の期間を見込んだため」と説明する。

2022年12月、衆議院総務委員会でマイナ保険証の利用登録解除について質問した宮本岳志氏(インターネット審議中継のスクリーンショット)

一方、2022年から問題を指摘してきた宮本岳志衆院議員(共産)は、厚労省のシステム改修の着手が遅かったとし、「(問題が発覚したときに)『解除すべきだと思います。お待ちください』と言えば良かったのに、サボタージュしてきた」と批判した。

◆解除後付け「二重投資」、コストは不明

解除機能の後付けで、追加コストもかかっている。 宮本氏は2023年11月の国会で、「最初から解除の仕組みを設けていなかったがために、システム改修をしなければならない。二重投資だ」と指摘している。 厚労省によると、保険証廃止に向けたシステム改修の予算249億円の中に、解除機能の分も含まれているという。 ただし、厚労省の担当者は「一体的な改修なので切り分けはできない」と説明しており、費用は不明だ。

◆マイナ保険証の登録解除の流れは

厚労省が9月30日時点で示している解除手続きの概要によると、解除希望者は加入する健康保険の窓口に申請をする。 健康保険の窓口では、基幹システムに解除依頼を入力する。12月以降は、有効な保険証を持たない人には、代わりの「資格確認書」を渡す。 登録時とは異なり解除の場合、マイナンバーカードの専用サイト「マイナポータル」で手続きはできない。     ◇ 東京新聞では、マイナ保険証に関する情報やご意見を募集しています。メールはtdigital@chunichi.co.jp、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞デジタル編集部「マイナ保険証取材班」へ。


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