目次
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自己負担額は自治体で差
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健康被害に対する救済制度も一部変更
新型コロナウイルスのワクチンは、感染の拡大以降、接種費用の全額を公費で負担してきましたが、新型コロナが5類に移行されたことなどを受けて、ことしの3月末に無料接種は終了しました。
そして10月1日からは季節性インフルエンザと同じように、原則、接種費用の一部の自己負担が求められる「定期接種」が始まります。
対象者は
▽65歳以上の高齢者と
▽60歳から64歳までの重症化リスクの高い人です。
接種は1日から準備が整った医療機関で順次始まり、期間は来年の3月末までで、接種回数は1回です。
ワクチン接種の費用はおおむね1万5000円ほどで、国は自己負担が最大でもおよそ7000円に収まるよう、1回当たり8300円を助成します。
また、自治体の中にはさらに上乗せで補助を行うところもあり、接種の自己負担額は地域によって差が出る見通しです。
一方、若い世代など定期接種の対象にならない人は「任意接種」で行われるため、原則、全額が自己負担となります。
厚生労働省は「新型コロナワクチンは、科学的知見で重症化の予防効果が確認されている。安全性も重大な懸念は認められないため、特に定期接種の対象者は接種を検討してほしい」と話しています。
自己負担額は自治体で差
新型コロナワクチンの定期接種では、原則、接種費用の一部の自己負担が求められます。
昨年度までは「まん延を予防するために緊急で行う必要がある」として、国が「特例臨時接種」という制度のもと費用を全額公費で負担してきました。
一方、1日から始まる定期接種では個人の重症化を予防する目的に行われ、原則として接種費用の一部の自己負担が求められます。
ワクチン接種の費用は1回当たりおおむね1万5000円ほどで、国は自己負担を抑えるため1回当たり8300円を助成します。
これによって自己負担額は最大でもおよそ7000円となります。
さらに、自治体によってはこれに上乗せする形で、独自に接種費用を補助するところもあります。
補助の金額は自治体によって異なり、このうち東京都では一定の補助を行う市区町村に対し、都が1人当たり1000円を上限に補助します。
都内の自治体の中にはさらに6000円を補助して接種費用を無料にするところもあります。
一方、医療従事者などからは、地域によって自己負担が大きく異なるとワクチンの接種率などに差が生じるのではないかという懸念の声も上がっています。
健康被害に対する救済制度も一部変更
新型コロナワクチンの定期接種の開始で、接種後の健康被害に対する救済制度も一部が変更されます。
ワクチンの接種後に病気になったり障害が残ったりした場合、国が接種との因果関係を否定できないと認定すれば、法律に基づいた救済制度で給付が受けられます。
この給付について、これまでは入院が必要ないような比較的軽い症状であっても医療費の自己負担分が支給されていましたが、今回の「定期接種」では、入院が必要な程度の症状に対する医療費に限られます。
また、万が一、接種後に死亡した場合、
▽これまでは因果関係が否定できないと認定された時は、死亡一時金としておよそ4500万円が支給されていましたが
▽今回の「定期接種」では、亡くなった人が世帯の生計を支えていると認められる場合は、遺族年金として1年におよそ260万円が最長で10年間支給され、それ以外の場合は遺族一時金としておよそ780万円が支払われます。
一方で、新型コロナワクチンの安全性については、PMDA=医薬品医療機器総合機構が定期的に審査を行って評価したうえで、厚生労働省の専門家部会がその内容が妥当かどうか検証します。
接種ワクチンは5種類 次世代型mRNAワクチンも
1日から始まる定期接種に使われる新型コロナワクチンは、
▽ファイザー、モデルナ、第一三共の各社のmRNAワクチン、
▽アメリカのノババックスが開発し、武田薬品工業が販売する組み替えたんぱく質ワクチン、
▽Meiji Seikaファルマの次世代型mRNAワクチンの5種類です。
このうち今回初めて接種に使われるMeiji Seikaファルマのワクチンは「レプリコンワクチン」とも呼ばれ、9月、新たに変異ウイルスに対応した製品が承認されました。
このワクチンには、免疫反応を起こす遺伝情報を含むmRNAという物質に加え、mRNA自体を体内で複製する酵素も組み込まれています。
mRNAが体内で複製されて増えるため、従来のmRNAワクチンよりも強い免疫反応を得ることができるとされていて、国内で行われた臨床試験では、接種から半年の時点でのウイルスの中和抗体の値が、従来型のmRNAワクチンの2倍余りとなっていたということです。
メーカーによりますと、mRNAは接種直後に多く複製されますが、一定の期間がたつと複製されなくなるということです。
ワクチンの有効性については、ベトナムで行われた臨床試験の結果、発症を防ぐ効果は56.6%、重症化を防ぐ効果は95.3%だったということです。
一方、国内で行われた臨床試験の結果、接種の副反応として
▽92.4%の人で接種部位の痛み、
▽44.8%の人でけん怠感、
▽39%の人で頭痛、
▽20%の人で37度5分以上の発熱などが報告されています。
また、添付文書ではアナフィラキシーショックのほか、ほかのmRNAワクチンでは心筋炎や心膜炎が報告されているとして注意を呼びかけています。
レプリコンワクチンは今回初めて接種に使われる新しいタイプのワクチンであることから、9月に開かれた厚生労働省のワクチンに関する分科会では、専門家から「客観的な事実をまとめて提示し、接種にあたる医師が科学的なデータに基づいて接種を受ける人に説明できるようにしてほしい」といった意見や、「国民に対して分かりやすい情報提供をしてほしい」といった意見が出されました。
厚生労働省は、定期接種の開始後も、ほかの種類のワクチンと同じように、副反応などについて調査を続けていくとしています。
ワクチンは各地の医療機関や自治体などがメーカー側から購入するため、厚生労働省は、どのワクチンがどこで接種できるかについては、それぞれの医療機関や自治体などに問い合わせてほしいとしています。
ワクチンに詳しい川崎医科大学の中野貴司特任教授は「レプリコンワクチンが新しいタイプのワクチンであることから安全性に不安を抱く人がいるかもしれないが、試験のデータではmRNAは徐々に消えて複製を続けるわけではなく、これまでのmRNAワクチンと同じように考えていいと理解している。ほかのmRNAワクチンや組み換えたんぱく質ワクチンもあるので、国が示した客観的な資料を参考にしたり、かかりつけ医や接種を行う医師と相談したりしてどのワクチンを接種するか決めてほしい」と話しています。
専門家「接種のメリット大きい」
感染症に詳しい川崎医科大学の中野貴司特任教授は、「さまざまなデータを見てもインフルエンザよりも多くの人が新型コロナウイルスに感染して入院し、命に関わる合併症を起こしている」と述べ、新型コロナウイルスはいまでも警戒すべき感染症だと指摘しています。
そして「ワクチンの有効性と安全性を総合すると、接種することによるメリットは大きい」としたうえで、定期接種の対象となる高齢者や基礎疾患のある人は、「重症化するリスクが高く、命に関わる可能性があるので、ワクチンを接種して、新型コロナウイルスに対する免疫を獲得することが重要だ」としています。
そのうえで定期接種の対象となっていない年代の人については「高齢者ほどではないが、元気な人でも重症化することは起こりえる。子どもの場合はインフルエンザと同じように脳症を起こすリスクもあるのでワクチンで予防するにこしたことはない」と述べ、接種を検討してほしいとしています。
また、例年冬に流行するインフルエンザのワクチンの接種を予定している人に対しては「いまでは新型コロナウイルスのワクチンとの同時接種も可能になっている。かかりつけの医師と相談し、過去の流行パターンを参考にしながら同時に接種するか別々に接種するかという選択肢を検討してほしい」と話しています。
流行の主流は オミクロン株の一種「KP.3」
厚生労働省によりますと、9月22日までの1週間に全国およそ5000の医療機関から報告された新型コロナの患者数は、前の週から4585人減って2万1400人となりました。
1つの医療機関あたりの平均の患者数は4.35人となり、4週連続で減少が続いています。
国立感染症研究所が行っている新型コロナウイルスのゲノム解析によりますと、ことし9月の時点で全国的に流行の主流となっているのは、オミクロン株の一種で「KP.3」と呼ばれる系統と考えられています。
一方、1日から接種がはじまるのは、ことし1月から流行している「JN.1」と呼ばれる系統に対応するワクチンです。
「KP.3」は、「JN.1」から派生した系統で、国立感染症研究所によりますと、今回のワクチンは、「KP.3」系統のウイルスに対しても効果が期待できるということです。
国内でもワクチン開発施設の整備進む
国内で新型コロナワクチンの接種が始まった3年前、接種に使うことができたワクチンは海外の製薬会社のものだけでした。
日本でも複数の企業や研究機関がワクチン開発に取り組んでいましたが実用化が遅れたことを受け、今後、再び感染症の世界的な流行が起きた場合に備えて、国産ワクチンの開発を速やかに進めるための施設の整備が進められています。
東京大学新世代感染症センターはこのほど、千葉県柏市のキャンパスに「治験薬GMP製造教育施設」というワクチンの研究開発拠点を新たに建設しました。
この拠点では大学などの研究機関が開発したワクチンの候補物質をもとに、臨床試験で実際にヒトに投与するためのワクチンを作る施設などが整備される予定です。
センターによりますと、ワクチンの研究開発は、細胞を使った実験や動物実験などは大学レベルの実験室で可能ですが、実際にヒトに投与する初期段階の臨床試験のためには安全性などの品質基準を満たしたワクチンを小規模に製造する施設が必要です。
日本にはそのような施設がほとんどなく、製薬会社や海外の施設に依頼しなくてはなりませんが、数億円の費用がかかるため資金不足で臨床試験が行えず、実用化に結びつかないケースが多いということです。
三重大学で新型コロナワクチンの研究を行っている野阪哲哉教授によりますと、3年前、動物実験で効果が示された新型コロナワクチンの臨床試験に進むことを目指しましたが、試験用のワクチンを製造できる施設が見つからず、およそ2年間研究がストップしたということです。
その後、台湾の企業に製造を依頼することができましたが、野阪教授は「日本のワクチン開発技術は決して海外に負けておらず、全国の多くの研究機関でいい『シーズ』が眠っている状態だ。臨床試験に対応できるワクチンが製造できる施設が大学内にできれば研究開発の状況は大きく変わる」と話しました。
センターでは、この施設を早ければ2026年度に稼働させ、全国の大学などに利用を呼びかけることにしていて河岡義裕機構長は「このような施設が大学にあれば研究開発のスピードが上がり、次のパンデミックへの重要な備えとなる」と国産ワクチン開発の拠点となることを期待しています。
レプリコンワクチンに不安の声 専門家は
「レプリコンワクチン」はSNSで多く投稿されていて、NHKが分析ツール「Brandwatch」で調べたところ、「レプリコンワクチン」に関する日本語のXの投稿は去年5月ごろから増え始めました。
リポストも含めて9月30日午後5時までで180万件を超えていて、新しいワクチンに不安を感じるとする投稿もみられます。
中には「シェディング」という言葉を用いて、接種した人からワクチンの成分などが排出されると主張するような投稿があり、関連する投稿は7万1000件以上ありました。
これについてワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫名誉教授は「レプリコンワクチンを接種したとしても、細胞の中でメッセンジャーRNAを複製しているだけでそれもずっと続くわけではない。体内でできるのはスパイクたんぱく質だけで、感染性を持った完全なウイルス粒子ができることはない。周りの人にばらまくことはまずない」としています。
また、Xでは「レプリコンワクチン」とともに「お断り」という言葉を含む投稿がおよそ4万9000件あり、中には接種した人の入店を断るとするものもありました。
実際にたとえば美容院などを検索するサイトで「レプリコンワクチン」と入れて調べると、入店を断るとする店舗が少なくとも数百店ありました。
このほかにも「接種が強制される」といった誤った情報も多く投稿されていました。
中山名誉教授はワクチンの選択肢が増えることは評価できるとしたうえで「レプリコンワクチンもこれまでに使われてきたファイザーやモデルナのワクチンと同じように有効性と安全性が確認されて承認されている。ただ、新しいワクチンであるため、今後、副反応がどう出るのかをしっかりとモニターしていく必要がある」と指摘しています。
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