米軍が使用してきた泡消火剤に含まれる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を巡り、アメリカ本国の米軍が基地周辺の汚染を改善させる取り組みを本格化させている。厳格化された水道水の基準値などに基づき、浄化する地域を増やしていく方針だ。一方、日本国内では防衛省や在日米軍の対応は鈍く、日米の格差が広がる。(松島京太)

旧ピース空軍基地の浄化施設を説明する米軍担当者ら=米国ニューハンプシャー州で(米国防総省のサイトから)

◆米国内の米軍施設で既に55カ所で浄化が…

 米国防総省は今月4日、米軍施設が汚染源であると特定した汚染地域の浄化を強化する新たな指針を発表した。指針によると、米軍はまず、米環境保護局(EPA)が設定した飲み水のPFAS基準の3倍以上となった民間井戸を優先し、暫定的な浄化を開始する。指針は「今後、相当数の民間井戸でPFAS濃度を下げる措置が必要になるだろう」と指摘する。  米国内の米軍施設では、既に55カ所で浄化が始まっている。米地元メディアなどによると、ミシガン州の旧ワーツミス空軍基地では、消火訓練で使用した泡消火剤が土壌に漏れ出し、周囲の地下水などが汚染。2015年に最初の浄化装置を消火訓練エリアに設置し、地下水などの浄化手段の開発も続けている。

◆地下水の浄化を全米に拡大

 国防総省は、基地で開発された浄化装置を全米に拡大させているという。例えば、ニューハンプシャー州の旧ピース空軍基地(現・ポーツマス国際空港)でも同様の装置を導入し、地下水の浄化にあたっている。  米疾病対策センター(CDC)は19年から「PFASピーススタディ」と呼ばれる疫学調査を実施し、旧ピース空軍基地周辺で住民の健康影響を調べている。

◆日米地位協定や日本の規制の緩さが「壁」

 日本国内では、在日米軍施設が汚染源と疑われる地域の汚染は放置されたままだ。米軍が浄化を強化する新指針は米国外は適用外な上、日米地位協定や日本の規制の緩さが「交渉の壁となっている」と識者は指摘する。  「(新指針が)在日米軍基地にどのように反映されるかは一義的には米国政府の判断であり、防衛省として答えることは困難だ」  木原稔防衛相は今月10日の閣議後会見で、米軍の新指針についてそう答えた。

米国防総省が新たに発表したPFAS浄化の指針

◆汚染源と認めない米軍施設

 そもそも、東京・多摩地域や沖縄県内などで米軍施設が汚染源と疑われる水道水の汚染が発生しているが、米軍は汚染源であることを認めていない。汚染源を特定できないため、浄化を求めることもできない。防衛省には汚染源特定のための調査の具体的な動きもない。  米軍基地問題に詳しい琉球大の山本章子准教授(日米外交史)は「仮に日米間で環境改善方針の合意ができたとしても、米軍施設が汚染源だと分かっていない上に、国内のPFAS規制が緩いため、米側に対策を求める根拠が乏しいのでは」と指摘する。

 アメリカのPFAS規制 米環境保護局(EPA)は今年4月、法的拘束力のある飲み水の基準値としてPFASの一種PFOSとPFOAを各1リットル当たり4ナノグラムと設定し規制を厳格化した。日本国内では、PFASの暫定目標値を両物質合計で1リットル当たり50ナノグラムと設定するが、拘束力はない。

 その上で、現状の日米地位協定や日米の環境問題対応を取り決めた環境補足協定の問題点を挙げ「米側に環境汚染の原状回復義務が課されていないので、外交の交渉にすらならない」と解説。「米軍の環境問題への取り組みは、米国内外で大きな温度差がある」と強調した。(松島京太、大野暢子) 

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