静岡県で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審判決が26日、静岡地裁であり、国井恒志裁判長は無罪(求刑死刑)を言い渡した。判決は捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)を認定し、袴田さんについて「犯人とは認められない」と述べた。
死刑が確定した事件での再審無罪判決は戦後5例目。焦点は、検察側が控訴するか否かに移るが、発生から58年、死刑確定から44年近くたって出された無罪判決は再審制度の在り方にも影響を与えそうだ。
再審公判では、事件発生約1年2カ月後、工場のみそタンクの中から見つかった半袖シャツやズボンなどの「5点の衣類」が犯行着衣なのかどうかが最大の争点となった。
国井裁判長は、シャツなどに赤みが残る血痕が付いていたことについて、「1年以上みそ漬けされた場合、血痕に赤みが残るとは認められない」と指摘した上で、「捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、タンク内に隠匿された」と判断。袴田さんの実家から押収されたズボンの端切れも「捏造」と述べた。
判決は袴田さんの「自白」についても検討。「黙秘権を実質的に侵害し、虚偽自白を誘発する恐れの極めて高い状況下で、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べで獲得された」とし、「実質的に捏造された」と認定した。
弁護側は、半袖シャツの血痕のDNA型鑑定から「(5点の衣類は)袴田さんのものではない」と主張。専門家の鑑定結果から、「『5点の衣類』の血痕に赤みが残っているのは極めて不自然」と訴えていた。
検察側は、半袖シャツの血痕と袴田さんの負傷部位が酷似していることなどから、袴田さんが犯行時に着ていたと主張。弁護側の血痕の色調変化に関する鑑定については、色味に影響を与える酸化速度などの検討が不十分だとし、「(袴田さんが)みそタンク内に隠したことに合理的疑いを差し挟むものではない」と死刑を求刑していた。
袴田さんは1980年に死刑が確定。第2次再審請求の差し戻し審で東京高裁は昨年3月、1年以上みそ漬けされた血痕の赤みは消えるとした弁護側の実験結果の信用性を認めて再審開始を決めた。
猫の「ルビー」と袴田巌さん=2月8日、浜松市(袴田さん支援クラブ提供)
確定判決が袴田巌さんの犯行時の着衣とした半袖シャツ(弁護団提供)
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