児童虐待の指標を示す児童相談所(児相)の相談対応件数を巡り一部の自治体で誤った数値を長年報告していた問題で、厚生労働省は24日、昨年公表の2022年度の相談対応件数の速報値から4327件下方修正し、21万4843件で確定したと発表した。実態と異なってきた統計が是正されたことになる。(木原育子)

◆虐待「非該当」のケースも計上し…

 誤って報告していたのは、当時児相を設置していた全国78自治体のうち23自治体。修正分の最多は埼玉県の1641件で東京都の1360件が続く。22年度時点で設置されていた江戸川、豊島、港、世田谷、中野の5区も修正し、都と特別区で修正分の約4割を占めた。  都は、統計を取り始めた32年前から一時期を除き、通告を受けて実際に職員が対応に当たったものの、結果的に虐待ではなかった「非該当」のケースも計上していた。国が求める記入要領では数に含めないルールだったが、「要領が分かりにくく常態化していた」(家庭支援課)とする。  都によると、22年度に「非該当」なのに誤って報告したのは1525件。都から特別区への児相の移管で年度をまたいで対応したケースを、都と区のどちらでどう計上するか国側との認識の相違などがあり、最終的に都の対応件数は1360件減の1万9345件で確定した。

◆自治体の解釈が統一されていない疑いが浮上していた

 虐待の相談対応件数は、児童虐待の施策を進める上で最も根幹となる公的統計。児相における児童福祉司の配置人数の基準や普通交付税に反映される。

2023年10月の記事

児童虐待の統計が長年「水増し」状態になっていた 虐待がなかったケースまで算入


 対応件数の確定値は通常毎年1月に発表されていたが、記入要領を巡って自治体の解釈が統一されていない疑いが昨年の東京新聞の報道で浮上。データを使い施策を担うこども家庭庁が実態調査をし、22年度の対応件数の再計上を求めていた。今回の確定値を基に本年度の普通交付税の交付額が算出される。

◆「たとえ1件でも誤りがあるものは改善しなければ」

 同庁の野中祥子・虐待防止対策課長は「行政のベースとなる数字について、たとえ1件でも誤りがあるものは改善しなければならない」と話した。今の統計は、児相が行っている虐待対応業務を十分に反映していないとして、今後統計の取り方を精査し、年内にも概要を公表する。  児童虐待に詳しい立命館大の野田正人特任教授(児童福祉論)は「数件程度の申告漏れではなく、1000件レベルで再修正した自治体は間違った解釈をしていたということだ。今後は統計でしっかり現状を捉え、児童虐待対応に本腰を入れる機会にしてほしい」と指摘する。

 児童虐待相談対応件数 児相が相談を受けて一時保護などの措置や指導を行った件数で、警察からの通告が半数を超える。子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV」などの心理的虐待が6割近くを占め、次いで身体的虐待が多い。1990年度の統計開始から32年にわたり一度も減少することなく最多を更新し続けている。2022年度の速報値は21万9170件(前年度比1万1510件増)だった。

◆記者解説 実態に即した統計で虐待対策を

 児童虐待の相談対応件数について、国は一部の自治体で長年にわたって誤った数が報告されていた実態を認め、統一された基準で修正した。実態に即した統計とし、現状を的確に把握する契機とすべきだ。

全国の児童相談所長らが集まった会議。毎年この場で虐待対応相談件数が発表されてきたが今年はなかった=東京・霞が関で(佐藤哲也撮影)

 虐待統計問題は、昨年10月の本紙報道の指摘を契機に、自治体ごとに異なる解釈で計上されている現状が明るみに出た。厚生労働省はデータの誤りを認め、1年がかりで見直した。  驚くのは、多くの自治体の担当者がこのずさんなありさまを、実はうすうす気付いていたということだ。記入要領のあいまいさをいいことに「知らぬふり」を通した自治体もあった。報道各社が毎年、「児童虐待、過去最多」と伝え続けたニュースをどんな思いで見つめてきたのか。交付税の算定にも関わる相談対応件数が自治体の解釈ひとつで変幻する状況を、見過ごしてきた責任は重い。  修正前の相談対応件数に基づき2022年に「新たな児童虐待防止対策体制総合強化プラン」が策定され、本年度までに児相職員の児童福祉司を1060人増やすよう目標値が設定された。来年度からは一時保護に司法が関わる「司法審査」も導入され、児童養護の現場は新たな局面を迎える。深刻化する虐待の対策は急務だが根幹となる実態をつかもうとする国や自治体の姿勢なくして、どれだけ立派な施策を築いても「砂上の楼閣」になるだけだ。(木原育子) 

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