日本医師会の役員就任披露パーティーで、松本吉郎会長(右から2人目)らの前で祝辞を述べる岸田文雄首相(右端)。左端は来年の参院選に出馬を表明している釜萢敏副会長
岸田は日医会長に再選した松本吉郎らと握手を交わしてあいさつ。「国民の日本医師会の先生方に対する期待、ますます大きくなっています」と持ち上げた。 官房長官や外相、厚生労働相、自民党幹事長らも次々と登壇して祝辞を述べ、日医の政治力を見せつけた。日本医師連盟 都道府県の医師連盟(医連)から毎年、10億円近い寄付を集めて運営し、3億~5億円を政界に提供している。パーティー券を含む献金先のほとんどが自民党の資金団体と議員、候補者ら側で、会員の医師が納める会費が原資となっている。参院の組織内議員への支援が最も厚く、2022年は自見英子(はなこ)議員の側に、関連団体や地方の医連を含めた献金額は約2億3000万円に上った。
◆現職大臣、組織内候補の後継を「よろしく」
日医には関連政治団体・日本医師連盟(日医連)があり、参院の2人の組織内議員を中心に医政活動を展開する。その1人、地方創生担当相の自見英子もスピーチし、最後にこう呼びかけた。「ちなみにきょうの私の赤い洋服は、来年の夏の釜萢(かまやち)先生の必勝を期しての赤でございます。よろしくお願いいたします」 釜萢とは6月に日医の副会長になった釜萢敏。来年引退する日医連の組織内議員・羽生田俊(たかし)の後継候補だ。全国から支援を取り付けようと、既に各地の医師連盟を精力的に回る。◆「擁立は政権政党支持のバロメーター」
「参院の比例代表に候補者を擁立することは、その団体がいかに政権政党を支持しているかのバロメーターになる」。昨年5月、都内で開かれた日医連の「医政活動研究会」。都道府県医連の役員らを前に、日医連委員長を兼任する松本は力説した。 研究会では、2022年の参院選で、会員1人当たりの得票数が上位4県の医連役員らが、ローラー作戦や電話作戦を報告。普段から国会議員や県議ら地方議員らと関係を築いておく重要性を訴えた。関係づくりの有力な手段が票とカネだ。日医連の選挙運動に詳しい関係者が話す。◆「前回これだけしか票が入ってない」とハッパ
「選挙になると、役員らが前回の総務省データを手に全国の医連を回り、『前回こちらの市町村では、日医連推薦の〇〇さんに、これだけしか票が入っていない』とハッパをかける」 さらに次のような話をすると明かした。 「医療制度のルールを決めるのは国会議員だ。もし日医連の推薦候補が落選して日本看護連盟の候補が票を伸ばせば、ナースプラクティショナー(NP)の話が出てくる。医師の指示なしでも医療行為をできるNPができたら、その人たちは診療所をつくりますよ」 「生活習慣病の患者の管理をNPがすることになれば、内科医の仕事の半分くらいはなくなる。内科の先生方は、それで大丈夫ですか」―。選挙で負ければ既得権を失うぞと、危機感をあおる作戦だ。 日医連や地方の医連が国会議員との関係を重視するのは、既得権を脅かす政策に対抗するためでもある。◆診察受けられない…コロナ禍で議論高まったが
新型コロナウイルス禍では、かかりつけ医だと思って連絡しても診察を断られる発熱患者が続出。それを受けて議論が高まったかかりつけ医改革は、各地の議員らと連携した日医連の反対に遭って失速。焦点の患者登録制や医師の認定制の議論は尻すぼみとなった。 今や当たり前となったカルテやレセプト(診療報酬明細書)の開示にも、日医は長く反対してきた過去がある。患者のためか、既得権維持のためか。票とカネによる医政活動の実態を見分ける必要がある。(敬称略) ◇ 国民医療費の9割近くは保険料と税が充てられるため、特に現役世代に年々負担が重くのしかかる。医療保険制度改革は進まない一方で、医療費の一部は献金となって政界へ還流する。票とカネを媒介とした政・業のなれ合いを再び追った。(杉谷剛が担当しました) 連載へのご意見や情報をお寄せください。メールはsugitn.g@chunichi.co.jp、ファクスは03(3593)8464、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞社会部「医療の値段」へ。 <連載:医療の値段・第4部 続・環流する票とカネ><㊤>「岸田さんが総理になったから1000万円」… 秘書は献金を辞退し、20万円パー券を提案した 医療費還流の舞台裏
<㊥>岸田首相は眼科医連盟の「支援議員」となり、多額の資金が動いた 「政治資金は善意の浄財」というが…
<㊦>日本医師会が隠さない「政治力」…患者のため?既得権維持のため? 「仕事が減る」と日医連が必死の票集め(この記事) <連載:医療の値段・第1部 環流する票とカネ>全6回
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