<医療の値段・第4部 続・環流する票とカネ>㊥  「岸田文雄内閣総理大臣と共に」―。全国の眼科医でつくる日本眼科医会(日眼医)の政治団体・日本眼科医連盟のホームページを開くと、そんなタイトルの写真がまず目につく。

日本眼科医連盟のホームページ。岸田首相の写真やビデオメッセージが掲載されている

◆官邸訪問の翌日に1000万円を献金

 岸田を挟んで、連盟執行委員長の白根雅子(日眼医会長)と、当時の副会長が並ぶ。首相就任8日後の2021年10月、官邸で撮影された。面会は10分間。白根は後日、「眼科医連盟ニュース」で「総理は誠実で穏やかなお人柄で、終始私どもの説明に熱心に耳を傾け…」などと振り返った。  連盟が岸田の側に1000万円の高額を献金したのは訪問の翌日。岸田はその次の日に衆院を解散しており、慌ただしい中で、面会が実現したことになる。

日本眼科医会  眼科医療の調査研究や公衆衛生活動などを行う。会員は約1万4500人。年会費は病院や診療所の院長らA会員は4万5000千円。会費収入は約4億円。関連政治団体の日本眼科医連盟の会費は1口5000円で、A会員は2口以上。22年は3258人から2824万円の会費収入があった。

◆貢献度に応じて献金を受ける「支援議員」

 岸田が連盟の依頼で「支援議員」に就いたのは18年。白根が日眼医会長になった年で「岸田さんの就任は、同じ広島が地元の白根さんが、トップになったことが大きい」と日眼医の関係者は話す。  「支援議員とは『連盟が応援するので、日眼医に協力してください』という議員。選挙で推薦状や陣中見舞いなどを出し、貢献度に応じて献金をしている」  支援議員は衆参に約20人おり、ほとんどが自民党の「眼科医療政策推進議員連盟」に名を連ねる。

◆ホームページにたびたび登場する首相

 「診療報酬などで厚生労働省に陳情する際、議連の存在は大きい。議連は毎年11月ごろに厚労省の官僚を呼んで総会を開く。議連のメンバーの前で、われわれが要望すれば、厚労省も話をよく聞いてくれる」  連盟のホームページには岸田のビデオメッセージも。掲載されたのは1000万円の献金から2カ月後のことだった。昨年は連盟ニュースにも岸田が登場。日眼医が要望して実現した3歳児健診の視力検査に対する国の補助制度など、政府の取り組みを説明している。  「総理のビデオメッセージや連盟ニュースなどは白根さんの功績。何かあれば岸田事務所にはよく白根さんが連絡していた」。多数ある公益団体のホームページに、首相がこれほど登場するのは珍しい。

◆眼科医連盟から2030万円受領

 首相は政府の政策決定に強大な権限を持つ。厚労相在任中は医療系の政治団体から献金を受けない政治家もいるが、岸田側は21~22年、パー券を含め医療系の13の政治団体から計5280万円を受領した。そのうち眼科医連盟が2030万円、日本医師連盟が1800万円と突出する。  献金の原資は医師が納める政治団体の会費で、元をたどれば医療費だ。眼科医連盟の高額献金に、ビデオメッセージや政府の施策への謝礼の意味は含まれるのか岸田事務所に尋ねると、文書で回答があった。  「政治資金は、政治信条、政策や政治活動一般にご賛同頂ける方々からの善意の浄財であり、『謝礼』といううがった見方は当たりません」  日本眼科医連盟も文書で「寄付や政治資金パーティー券の購入は政治家の政治姿勢や政策などに共感し、その方の政治活動全般を支援するためであり、質問にあるような『謝礼』の趣旨はありません」と答えた。  (敬称略)   ◇  国民医療費の9割近くは保険料と税が充てられるため、特に現役世代に年々負担が重くのしかかる。医療保険制度改革は進まない一方で、医療費の一部は献金となって政界へ還流する。票とカネを媒介とした政・業のなれ合いを再び追った。(杉谷剛が担当します)  連載へのご意見や情報をお寄せください。メールはsugitn.g@chunichi.co.jp、ファクスは03(3593)8464、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞社会部「医療の値段」へ。 <連載:医療の値段・第4部 続・環流する票とカネ>
<㊤>「岸田さんが総理になったから1000万円」… 秘書は献金を辞退し、20万円パー券を提案した 医療費還流の舞台裏
<㊥>岸田首相は眼科医連盟の「支援議員」となり、多額の資金を受領した 「政治資金は善意の浄財」というが…(この記事)
<連載:医療の値段・第1部 環流する票とカネ>全6回
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