大阪府職員の約4割が、夏の仕事中に熱中症の症状を自覚している。  こんな結果が労働組合アンケートで明らかになった。官公庁の多くが環境省のクールビズも目安とする「室温28度」にならっているが、健康面からの根拠は乏しいという。政府から民間企業への呼びかけも見直される中、官僚からは嘆きの声が上がる。(山田雄之)

◆残業はクーラーなしで

 「暑くて頭がボーッとして作業効率が落ちている」
 「せざるを得ない残業をしているのに、冷房がなく暑さで気分が悪くなる」  大阪府関係職員労働組合が8月上旬に実施したアンケート(回答数670)によると、昨夏や今夏の仕事中にだるさや目まいなど熱中症の症状を感じたとの回答が42.5%に上った。

彼岸の入りを過ぎてなお体温のような気温が表示された電光掲示板=名古屋市内で(益田樹撮影)

 府によると、庁舎内の冷房は原則として7~9月の平日午前9時~午後6時半に稼働し、時間外は止まる運用。室温は28度以下になるように設定されている。稼働時間外にはポータブルクーラーを設置した「空調確保室」も使えるが、職員は30人しか入れない。  府は今回のアンケート結果を受け、2025年度から午後6時半以降の冷房の稼働も検討するが、室温変更は考えないという。担当者は「職員の労働環境はおろそかにできないが費用も考慮しながら、何時まで延長できるか考えたい」と話す。

◆2005年頃の夏は今ほど暑くなかった

 官僚たちが集まる東京・霞が関も大阪同様に暑い。省庁の庁舎内も政府の閣議決定により、原則として「室温28度程度」になるよう、冷房を設定している。ただ全館空調などで冷房のこまめな調整はできない。

霞が関の官庁街(手前)。中央奥は国会議事堂=2021年、本社ヘリ「おおづる」より撮影

 40代のある官僚は「パソコンやコピー機などの機器周辺や、空調の効きが悪い窓際は28度とは思えない。うちわを使う同僚もいて、政府の期待とは裏腹に、生産性が下がる職場環境になっている」と漏らす。  ところで「28度」が広まったのは、小池百合子環境相(現東京都知事)がクールビズを提案した2005年とされる。地球温暖化対策で温室効果ガスを削減するため、ノーネクタイなど軽装を取り入れることで、過度に冷房に頼らないよう呼びかけた際に掲げた。

地球温暖化防止国民運動に取り組む小池百合子環境相(左)と日本サッカー協会の川淵キャプテン=2005年6月14日、日本サッカー協会で(上條憲也撮影)

 当初は「設定温度28度」と唱えていたが、設定通りの室温になるとは限らないため、2009年度から「室温28度」と修正した。そもそも根拠となっているのは、労働安全衛生法の事務所衛生基準規則などで定めた室温設定の上限という。50年以上前に定められた温度で、今ほど夏は暑くなかった。

◆民間では見直し進むが公務員は…

 一方で、民間への呼びかけは見直しが進む。資源エネルギー庁は毎年企業向けに示している省エネの取り組み文書の中で「室温28度目安」とする文言を2023年から削除し、「健康を第一に、温度は柔軟に設定」と変更した。設定温度と室温を混同するケースが後を絶たない中で、担当者は「28度を意識し、熱中症になったケースもあったと聞く。省エネを気にするあまり、健康が害されては元も子もない」と説明する。  熱中症患者の診察歴が長い埼玉慈恵病院(埼玉県熊谷市)の藤永剛副院長も「室温が28度以下なら熱中症のリスクが低下する、との医学的な検証やデータは乏しい。湿度や風の有無も影響するので心地よい設定にするべきだ」と提言する。  年々暑くなる夏。中央省庁は「室温28度程度」の見直しに着手しないのか。環境省の担当者に尋ねたが、「現時点では検討する予定はない」という。先の官僚は嘆く。「地球温暖化も分かるけど、『公務員だけは暑さを我慢しなさい』では、志望者は減っていくばかりだ」 

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