政府が原発の新増設を進めるため、建設費などのコストを電気料金に上乗せし、消費者から広く徴収する支援制度の導入を検討している。「コストやリスクをこっそり国民に押しつける制度はおかしい」。環境団体や市民団体が、構想に反対する声を集めようと、オンライン署名活動を始めた。そもそも、この構想はどんな問題をはらんでいるのか。(太田理英子)

日本原電敦賀原発3、4号機の建設予定地=福井県敦賀市で(本社ヘリ「まなづる」から)

◆「電力自由化に反する」

 「原発を特別扱いして独占的地位を確立することになり、電力自由化に真っ向から反する。大変な問題だ」。署名開始に合わせて開かれた18日のオンライン記者会見で、呼びかけ人の一人、龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)はそう強調した。  2016年に始まった電力の全面自由化は、競争原理の導入で大手電力会社による地域独占体制を崩し、電気料金を値下げすることも大きな目的だった。しかし、政府の原発支援構想は新たな国民負担につながる可能性がある。

◆料金上乗せ「英国モデル」

 政府内で検討しているのは、英国の原発支援策「RABモデル」を参考にした新たな制度。同モデルは、国が認可した原発について、建設が始まった時点で、建設費や維持費を、電力小売会社に負担させる仕組みだ。小売会社は、顧客の電力料金に上乗せして負担分を回収する。当初の想定よりも建設費が膨らんでも、必要経費と認められれば、料金に追加で上乗せもできる。  構想が浮上した背景には、東京電力福島第1原発事故後、既存の原発の再稼働には巨額の事故対策費などが必要となり、電力会社側の財政負担が重くなっている事情がある。新制度で、稼働前から原発事業者に一定の収入を保証することで原発投資を促し、新増設を進める狙いとみられる。経済産業省は今後、具体案を検討する。

◆既に賠償費用は料金に転嫁

政府が再稼働を進める東京電力柏崎刈羽原発。1兆円を超える事故対策費用をかけている=5月、新潟県で(本社ヘリ「あさづる」から)

 大島氏はRABモデルについて、「建設コストの増大や遅延のリスクなどを一般市民に転嫁することになる」と問題視する。これまでも、福島第1原発事故の賠償費用を、家庭向けの電気料金に含まれる託送料金(送配電網の利用料)に上乗せするなど、原発にかかるコストを表に出にくい形で、国民に負担させる流れができていると指摘。「税金だと分かりやすいため、託送料金としてじわじわと取る形になるのでは」

◆「温暖化対策も遅れる」

 東北大の明日香寿川(じゅせん)教授(環境政策論)は、自身が加わっている研究グループの試算を元に、原発新増設を進めれば再生可能エネルギーを中心にした場合よりも電力価格が高くなると指摘。「原発は二酸化炭素の削減コストが高く、温暖化対策も遅れる」とした。  長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は「国際原子力機関(IAEA)の予測などでも、明らかに原子力シェアは世界的に衰退しているのに、政府は客観的評価をしていない」と指摘。新制度の検討が不透明な意思決定プロセスで進むことを懸念し、「データを公開して国民的議論をする仕組みが必要だ」と訴えた。

◆首相と経済産業相宛てに提出を目指す

 署名活動は環境問題などに取り組む13団体と有識者ら9人が企画し、運営サイト「Change.org」で募っている。10月25日で一度締め切り、首相と経産相宛てに提出する予定。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。