太平洋が一望できる国民宿舎「鵜の岬」=2024年8月、茨城県日立市

 茨城県日立市に、公営の国民宿舎の中で利用率が35年連続全国1位を誇る宿泊施設「鵜(う)の岬」がある。昨年度の稼働率も99.7%と民間施設に引けを取らない。太平洋にせり出した伊師浜海岸に立ち、全室オーシャンビューの眺望や温泉を求め、県外からも多くの客が訪れる。公営の宿が姿を消していく中、人気を維持している。(共同通信=奥林優貴)

 8月初旬の午前10時、フロントはチェックアウトを済ませた客で混雑していた。千葉県から親族ら9人で訪れた松尾香恵さん(56)は「眺めが良く、静かな場所で落ち着けた。国民宿舎のイメージとは違い、リゾートみたい」と満足げだった。

 鵜の岬は1971年開業。8階建てで定員204人、料金は1泊2食付き1人1万1480円から。茨城県の委託を受けた県開発公社が運営する。県によると、新型コロナウイルス禍を除き、開業から黒字を維持。宿泊人数を定員で割った利用率も80%前後が続く。

 夏は海水浴客でにぎわい、近くには伝統漁の鵜飼いで使われるウミウの国内唯一の捕獲場もある。宇佐美泰重支配人(55)は「地域を盛り上げる手助けをするのも公営施設の大事な役目」と話し、地元住民との夏祭りや、鵜飼い観賞などのイベントも開く。シニア層を中心にリピーターを増やしてきた。

 課題もある。国民宿舎協会(東京)によると、国民宿舎は赤字などから民間譲渡や閉業が相次ぐ。ネックは施設の修繕費だ。鵜の岬でも今後10年で、客室や外壁の改修などに9億円超かかるとの試算があり、県は財政負担の増加を懸念。県議会で経営方針の議論が続く。

 国学院大の井門隆夫教授(宿泊産業論)は「単価を上げつつ、培ってきた強みや顧客層に合った経営を続ければ、今後も優秀な稼働率を保つことができる」と指摘した。

 ▽国民宿舎 国立公園や温泉地など自然豊かな環境の中にある宿泊施設。誰もが低価格で快適に利用できるよう、旧厚生省が1956年に制度化した。当時は宿泊施設が少なかったこともあり、全国で建設が進んだ。国民宿舎協会によると、公営の国民宿舎は、1982年度には345カ所あったが年々減少し、今年7月末時点で46カ所。民営の国民宿舎もある。

取材に応じる「鵜の岬」の宇佐美泰重支配人=2024年8月2日
「鵜の岬」のフロントで手続きを行う宿泊客=2024年8月

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