人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを用いた再生医療の産業化を推進する複合施設「中之島クロス」が大阪市北区で6月、開業した。医療機関や企業のほか、iPS細胞を開発したノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥(やまなか・しんや)氏が率いる京都大の研究機関などが入る。先端医療産業の一大拠点が西日本に誕生した。
「一つ屋根の下、皆が顔を合わせて議論し、化学反応が起こることを期待したい」。6月の内覧会で施設を運営する「未来医療推進機構」理事長に就任した大阪大の澤芳樹(さわ・よしき)特任教授は意気込んだ。
中之島クロスは、かつて大阪大医学部があったエリアに建設され、地上16階建て。民間企業などと大阪府が設立した未来医療推進機構が運営する。医療機関が入る一画には眼科や循環器科、整形外科などが入る。
現在約30社が再生医療や細胞加工物の開発などを進める。iPS細胞から作る心筋シートを開発した澤氏が最高技術責任者を務めるベンチャー「クオリプス」やロート製薬などが研究室を置く。
施設整備の背景には、再生医療産業の国際競争力低下への危機感がある。特許庁は2022年度の報告書で「日本はiPS細胞研究で優位にあったが、欧米や中国で論文の発表件数が増加している」と指摘。「ベンチャー企業の資金調達の規模が欧米よりも少ない」などと課題を挙げた上で原料の細胞の入手、流通などさまざまな分野での連携が必要と結論付けた。
施設は危機感を体現する。山中氏が理事長を務める京都大iPS細胞研究財団は、患者の細胞から低コストで細胞を作製、提供する事業を進める。細胞を安定供給することで医療や企業研究を後押しすることを目指す。
三井不動産はベンチャー企業向けの賃貸スペースを整備した。実験設備や細胞培養室を共同で利用でき、機器購入の初期投資を抑えてすぐに実験を開始できる。大阪府は関係者の交流イベントを開催し、新規事業の誕生を促す方針だ。
澤氏は「中之島を大学やベンチャー、大企業などが集まって新産業を生む米国のボストンのような拠点にしたい」と話している。
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