日本経済新聞は自由度の高い電子版を活用し、デジタル時代ならではの報道を追求してきた。3D技術を駆使した視覚的にわかりやすいビジュアルコンテンツづくりが柱だ。通常の取材にとどまらず、大量の公開情報から真実を掘り起こすOSINT(オープンソースインテリジェンス)も活用する。従来の記者の範囲を超えた多様な人材が集まり、新聞協会賞の受賞につながる成果を生んだ。

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福島第一原発、1万枚超の空撮から迫る

  • 【ビジュアルコンテンツ】福島第一原発の処理水、海にどう放出? 3Dで解説

東日本大震災でメルトダウンした東京電力福島第1原子力発電所。傷ついた地域の復興や迷走する原子力政策の立て直しには、廃炉が欠かせない。政府と東電はその妨げになる大量の処理水を海洋に放出することを決めた。実際にどう流すのか、どう安全を確保するのか。公表資料は難解で、国内外の関心や疑問に答えているとは言いがたかった。

原発は立ち入りや撮影を厳しく制限している。取材班は3キロ離れた上空から1万枚超の写真を撮影した。複数の写真から立体画像をつくる「フォトグラメトリー」の技術で3Dモデルを構築し、処理水放出のステップを図解した。

政府や東電は事故から30〜40年での廃炉完了を目指している。最難関は溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しだ。こうした残る課題も解説した。

滑走路での衝突、OSINTで検証

  • 【ビジュアルコンテンツ】JAL機炎上、そのとき何が 検証・羽田空港衝突事故

羽田空港の滑走路で1月2日、日本航空(JAL)機が海上保安庁機とぶつかり、炎上した。午後5時47分。日没後で現場は暗く、情報は断片的だった。ネット上では様々な臆測が飛び交い始めた。何が起きたのか、正確な状況を明らかにする必要があった。

航空機の軌跡をたどれるフライトデータ、SNS投稿映像、ライブカメラ映像などから、衝突直前までの両機の動きを秒単位で検証した。公式サイトなどをもとに可能な限り寸法を合わせた3Dモデルを用意し、事故をシミュレーションした。

公開は事故から1週間後の1月9日。当事者や当局とは別の立場から客観的な情報を素早く読者に届けるジャーナリズムの役割を果たした。

職種横断のチーム、多様なコンテンツ


活字だけでは伝えきれない情報がある。紙面ではなくスマホなどの端末でニュースに接する読者も増えている。報道の受け手の環境が変わっているのであれば、メディアも旧来のままではいられない。日経は編集者、記者、デザイナー、エンジニアが机を並べる職種横断のビジュアルジャーナリズムのチームをつくり、拡充を続けている。
新聞協会賞受賞の2本だけでなく、多様なコンテンツをつくってきた。23年11月公開の「中国に狙われた工作機械」、24年6月公開の「氾濫する生成AIアニメ」が代表例だ。

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