中華丼や焼き鳥の具材に、生のままざるそばのつゆにも―。鶏卵に比べれば地味だが、一定の存在感があるウズラ卵が今、強い逆風にさらされている。ウクライナ危機や円安による物価高を受けて価格が上昇、今年2月には小学校の給食で児童がのどに詰まらせて死亡する事故が起きた。生産の担い手不足という長期的な課題もあり、食卓の名脇役が窮地に立たされている。(宮畑譲)

ウズラ卵を加工している天狗缶詰三河工場=愛知県豊川市で

◆飼料価格や光熱費など飼育コストが上昇

 今春、ウズラ卵を加工する食品メーカーが相次いで、値上げに踏み切った。  マヨネーズで知られるキユーピー(東京)は3月から、10個入り「玉九 うずら卵水煮」を税込み285円から301円に値上げした。値上げは2022年以降、3回目。22年の値上げ前は235円で比較すると約28%上がった。飼料価格や光熱費など飼育コストの上昇が主な要因だという。  ウズラ卵の水煮が主力の食品メーカー・天狗(てんぐ)缶詰(名古屋市)は4月1日から出荷価格を値上げした。値上げ率は非公表だが、広報担当者は「餌代など生産者に負担がかかっている。ロシアのウクライナ侵攻以降、工場の光熱費や物流費も上がっている」と話す。

◆全国の飼養羽数は2~3割減

 農林水産省によると、2023年の全国のウズラの飼養羽数は約446万羽。100羽以上を生産する農家は49戸になっている。11年の約525万羽、70戸と比べ、2~3割減っている。新型コロナ禍での外食の機会の減少も打撃になったようだ。昨今の情勢は、その落ち込みからの回復に水を差す。  全国の生産農家の半数近く、飼養羽数の約60%を愛知県が占める。中でも生産が盛んなのが豊橋市だ。ウズラ卵生産者でつくる豊橋養鶉農業協同組合は昨年4月、1~2割の値上げに踏み切った。組合の役員は「ウズラは卵を硬くするために魚粉を与える。魚粉は主に輸入に頼っているが、ずっと値段が下がらない。物流コストなども上がり、ウズラ卵の価格を維持したままでは吸収しきれなくなった」と嘆く。  そして「数十年、値上げせずやってきた。なるべく安く出荷したいが、餌を変えるわけにはいかないし、農家を守らなくてはならない」と、やむにやまれぬ状況を話す。

◆給食で事故、原因の可能性

 物価高に加え、業界に激震が走ったのは今年2月。福岡県みやま市の小学校で、1年生の男子児童が給食をのどに詰まらせ死亡した。給食のみそおでんに入っていたウズラの卵が原因の可能性があるとされた。  先の天狗缶詰は3月の出荷量が前年同月比で25%減となった。広報担当者は「事故の影響なのか、必ずしも明確ではないが、今後への不安はある」と話す。  先の組合の役員は「一部の地域で学校給食への卸しが止まった。メーカーから『納品を減らしてくれ』と言われたら、羽数を減らすしかなく、まだ卵を産める鳥の淘汰(とうた)も強いられる。この状況が続けば、海外産に取って代わられ、国産が出回らなくなる恐れもある」と危惧する。

◆「キャラ弁」のアクセントとして

 ウズラ卵は「キャラ弁」のアクセントとしても使われるが、中華丼や焼き鳥などの具材が、昔からの定番となっている。  食生活ジャーナリストの近藤卓志氏は「ウズラ卵に限らず、前からずっとある食材は食べ方も限定されがち。人の好みは時代とともに変わる。常に新しいアプローチを試みていないと廃れてしまう」と指摘し、こう促す。  「ウズラ卵は見た目がかわいくて食べやすい。栄養もある。よいところはいっぱいある。業界を挙げ、いろいろな食べ方や新しい魅力を探し、アピールしていけば、乗り越えていける」  ピンチをチャンスに変えられるか。ウズラ業界の奮起も求められている。 

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