路地を歩くと、木づちを打つ音がそこかしこから聞こえる。ネパールの首都カトマンズから南へ9キロ。人口約8千人のブンガマティはカトマンズ盆地の先住民族ネワールの木工が多く住む集落だ。ネパールの寺院、家屋を彩る精巧な木彫りの扉や仏像の代表的な産地として知られる。2015年のネパール大地震で大打撃を受け、新型コロナウイルス禍と試練が続いたものの、新たな担い手も出てきている。(共同通信=角田隆一)
「地震の前は路地の両側いっぱいに職人がいて、腕を振るっていたよ」。サンプワナ・マハルジャンさん(40)は、通りに面した小さな工房の敷居に座ってヒンズー教の女神像を彫っていた。
ここで職人になろうと思えば、親や親戚、隣人から技術を学ぶ。高齢の職人は「祖父の代のずっと前からやっているらしいが、詳しくは分からない」と世代を超えて伝統をつないできたと話す。
ブンガマティの木工の里としての始まりは17~18世紀ごろ、盆地で栄えた王朝の建造物を飾る目的で職人が集住したためとされる。2015年の大地震後には全半壊した寺院や宮殿の修復、再建に駆り出された職人も多い。
だが世界銀行によると、国内総生産(GDP)の6.7%を占めていた観光産業はコロナ禍で打撃を受けた。土産用の木彫りやホテルなどの内装の需要も落ち込んだ。マハルジャンさんは「昔は職人が150人以上はいた。今残っているのは50人ぐらいだろう」と多くが中東などに出稼ぎに出たと話す。
ただ、新たな担い手も出てきた。「ある程度、収入が見込めるのはとても魅力」。夫がサウジアラビアに出稼ぎに行ったパルミラ・タマンさん(24)は2年前から女性の友人と共にベテランの職人から技術を学んだ。
楽器を制作中で、工房の傍らで5歳の長男が遊ぶ。集落では伝統的に職人は男性が担ってきたが、今は計3人の女性職人がいる。「(周囲からの)反発はない。集中力は男性よりある」。こちらを見もせずに木づちを振った。
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