山林が面積の8割を占める埼玉県唯一の村である東秩父村で、12年ぶりに村長選が複数の候補者で争われる見通しとなった。地方政治家のなり手不足が深刻な中、4人が出馬の意向を表明した。村長選は20日告示、25日投開票され、「過疎の村」の新たなかじ取り役が決まる。(福田真悟)

12年ぶりの選挙戦が予定される東秩父村の役場周辺=埼玉県東秩父村で

 「村の少子高齢化は深刻。どんな対策ができるのか」。14日昼下がり、観光施設「道の駅 和紙の里ひがしちちぶ」の飲食スペースで働く70代男性が話した。

◆人口2400人、65歳以上が半分近く

 県西部にある村の人口は約2400人。多くが暮らす平野部は商店街や大型店舗などは見当たらず、田園風景が広がる。隣の小川町とともに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された「細川紙」の手すき技術が伝わる村としても知られる。  人口減少は深刻だ。昨年1年間の出生者は2人だけ。2004年の約4000人から4割ほど減り、65歳以上が半分近くを占める。65歳以上の介護保険料の負担は全国平均を700円ほど上回る月額約6900円。産業も乏しく、村に必要な財源に占める独自収入は2割に満たず、「過疎地域」の指定要件となる半分程度をはるかに下回る。近隣の自治体との合併も過去に2度試みたが、財政面の弱さもあり頓挫した。

◆掲げる政策は「子育て」「高齢者」「災害」「産業」

 今年3月、足立理助村長(74)が9月の任期満了をもって「退任する」と村議会で表明。後継者を指名せず、8人の村議のうち3人が次々と村長選に立候補する意向を示した。足立路線を継承するかどうかや、建て替えを計画する庁舎のあり方など、それぞれの訴える政策の違いがある。  全国的に村長選はなり手不足からか、無投票や多選が目立つ。東秩父も、3期目の足立村長が12年に初当選した際の村長選が12年ぶりだった。その後、16、20年は無投票が続いた。  出馬表明した元村議長の高野貞宣さん(75)は「子育て支援の充実」、元村議長の田中秀雄さん(74)は「高齢者支援の充実」、前村議長の百瀬浩子さん(52)は「災害対策」、元大学客員教授の竹内幹雄さん(77)は「産業振興」などを重視すると訴える。

◆「誰がなっても大変だ」

 12年ぶりの村長選を控えるものの、村民にさほど高揚感は見られない。道の駅の直売所で働く50代のパート女性は「少子化の解消など、誰がなっても大変だと思う」と話した。

12年ぶりの選挙戦が予定される東秩父村=埼玉県東秩父村で

 ただ、「それだけ村長をやる意欲がある人がいるのはいいこと」「いろいろな人の話を聞けるのはいいと思う」といった声もある。東秩父村商工会の関根正明会長(60)は「コロナ禍の影響もあったが、中小、零細企業の衰退が著しい。若者の定住促進など、少しでも村が活気づくことにつながる選挙になれば」と期待を込めた。  ◇  ◇

◆「過疎地域は水源や治水機能などで大都市と協力関係」

 政府は、人口減少率や高齢者比率、財政力指数などの要件を満たす自治体を「過疎地域」に指定し、財政支援を手厚くしている。全市町村に占める過疎地域の割合は増え続け、2022年4月に885市町村となり5割を超えた。首都圏でも、東京都心から離れた地域に偏在している。  一般社団法人「全国過疎地域連盟」によると、過疎地域の人口は全国の1割に満たないが、面積は国土の約6割を占める。  縄倉(なわくら)晶雄主任研究員は「人口減少で産業の担い手そのものが減っていたり、高齢化で高齢者が自治会活動を担わざるを得なかったりと、課題は地域によってさまざま」と指摘。「過疎地域は遠くにある田舎ではなく、水源や治水機能などの面で大都市と協力関係にある。都市に住んでいる人にも密接に結び付いている場所だと心に留めてほしい」と話した。(杉浦正至) 

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