7月12日、松山市の松山城がある山で土石流が発生し、ふもとの住宅に住んでいた3人が巻き込まれて死亡しました。
観光名所の1つの松山城では営業休止が続いて、地域経済への影響が懸念されていましたが、夏の観光シーズンを前に7月末に営業が再開され、観光客の姿も戻りつつあります。
しかし、山のふもとの一部の地区では土砂災害の危険性があるとして現在も20世帯33人に避難指示が出されていて、親族の家や市が用意したホテルなどに身を寄せている人もいて、避難生活が長期化しています。
応急工事としてふもとで進めている土のうの設置は8月10日に完了したほか、斜面をシートで覆う工事は早ければ8月26日にも完了する見通しで、市は一定の安全が確保できたら早期に避難指示の解除を検討することにしています。
一方で斜面全体を復旧させる工事は少なくとも1年半から2年ほどかかると見通しで、市は「被災された方々が安全・安心に生活できる環境を早期に整えられるよう復旧に取り組みたい」としています。
「長引く避難生活で疲れ」被災の飲食店 営業再開のめど立たず
土石流で経営する飲食店が被災した人は、店の再建に多額の費用がかかることから営業再開のめどが立っておらず、今後に不安を抱えています。
松山市緑町でおよそ30年前から飲食店を営む竹田利宣さん(65)は、自宅と店に大量の土砂が流れ込む被害を受けました。
現在も自宅で生活ができないため、市が用意したホテルで妻と2人での避難生活を余儀なくされています。
店内に流れ込んだ土砂や樹木によって冷蔵庫や冷凍庫、ビールサーバーなどの設備が壊れたほか、壁にも穴が開いていて、店の再建には数百万円ほどの費用がかかる見通しです。
松山市は住宅が損壊した場合には世帯に災害見舞い金を給付していますが、店の再建については補助金などの支援策が示されておらず、竹田さんは今後、店を継続できるか不安を抱えています。
竹田さんは「常連客や地元の人からは店を再開してほしいという声もいただいているが、長引く避難生活で疲れが増しているのを感じています。今後、市には現状を知ってもらったうえで、支援策を検討してほしいです」と話していました。
専門家 “別経路で少なくとも120トンの水が流れ込んだ可能性”
8月10日に開かれた愛媛大学の調査速報会で、地盤工学が専門の小野耕平講師は、今回の土石流について、これまでの分析結果を報告しました。
斜面の上流部を撮影した崩壊前後の空中写真や測量データなどをもとに分析した結果、崩壊した土砂の量はおよそ2400立方メートルと推計されました。
しかし斜面の傾斜や表層地盤の厚みなどから計算したところ、当日までに降っていた雨の量だけでは斜面は崩壊に至らず、別の経路をたどって少なくとも120トンの水が流れ込んだ可能性があるということです。
斜面の頂上部には城の天守や緊急車両用の道路などがあり、小野講師はこの頂上付近から流れ込んだ可能性があると指摘しています。
小野講師は「松山市では今回と同程度以上の雨は過去5年間で少なくとも2回経験しており、今回の雨量が極端に多いわけではない。水の流入経路について今後さらに詳しく調べる必要がある」としています。
頂上付近の道路での亀裂や擁壁の傾き 土石流との関連を調査
土石流の発生との関連が調査されているのが、頂上付近の道路で相次いで確認された亀裂や擁壁の傾きなどです。
松山市によりますと、2017年9月、頂上付近の「緊急車両用道路」で道路を支える擁壁に傾きが確認されます。当時、市は軽微な傾きだとして経過観察と判断しました。
翌年の2018年7月、西日本豪雨の直後には道路上に数メートルにわたる亀裂ができます。その後、樹脂で隙間を埋める修繕を行いました。
去年7月には、道路上の亀裂だけでなく、道路脇の斜面にも地滑りやひび割れが起きます。ブルーシートをかぶせるなどして雨水の侵入を防いだということです。
そして先月(7月)1日、道路には10メートル以上にわたって大規模な亀裂が確認されました。
頂上付近で確認された現象は、土石流の前兆だったのか。
愛媛県と松山市、専門家などが原因の究明などを検討する委員会の委員長を務める、愛媛大学工学部の森脇亮教授は「工事そのものが災害に影響したとは思わないが、擁壁が傾いたり道路にひびが入ったりしていたことは、崩れることの前兆として捉えられたのではないか」と話していました。
松山市の市街地整備課は「土砂災害の危険性があると判断したのは先月1日時点で、それまで土砂災害を予見できるような兆候はなかった」と説明しています。
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