大好きな魚を題材にしたネタを交流サイト(SNS)で発信する「さかな芸人ハットリ」さん(35)が11日、外来種を調理して提供するキッチンカーを始める。初めての出店先に選んだのは、川崎市多摩区の多摩川河川敷に面した稲田公園。かつて多摩川への外来種放流を防ごうと、飼えなくなった観賞魚などを受け入れる「おさかなポスト」があった場所だ。

さかな芸人ハットリさんとキッチンカー=茨城県稲敷市で(いずれもさかな芸人ハットリさん提供)

◆「いちゃいけない魚なのに…」幼少期に感じた矛盾

 ハットリさんは2010年から芸人として活動。動画投稿サイトのユーチューブでは、絵を描いたスケッチブックをめくりながら、ヒット曲の歌詞を魚の名前に置き換えて熱唱する。  小学校低学年のころから父親(75)に連れられて渓流釣りに親しんだ。在来種のアマゴに魅了されたが、淡水魚の図鑑に「海外から持ち込まれた」と説明のあった外来種のブラックバスにも興味を持った。当時はバス釣りがブームで、「日本にいちゃいけない魚なのに釣るのは楽しい。矛盾を感じた」と振り返る。

◆外来種対策が「釣り業界の敵」と批判されたことも…

アメリカナマズを捕まえるさかな芸人ハットリさん=茨城県稲敷市で

 早稲田大を卒業後、「20種類達成するまで釣った淡水魚以外食べない」などの企画に次々と挑戦。ブラックバスを食べた経験をテレビの釣り番組で紹介し、「釣って食べて減らしましょう」と呼びかけた。だが、国内にはバス釣りを活性化策としている地域もあり、ネットで「釣り業界の敵」と批判されることも。  外来種を巡る問題の複雑さを感じたが、「外来種を釣って食べることには正当性がある」との思いは消えず、2022年4月から半年間、自分で捕獲した外来種を毎日食べる企画に挑戦。ブルーギルなどの魚はもちろん、カミツキガメ、ウシガエルなど幅広い種類を工夫しながら調理した。

◆スタート場所に込めた思い

キッチンカーで提供するアメリカナマズのフライの試作品

 ついには「人に提供したい」と食品衛生責任者資格を取り、キッチンカーを新車で購入。初出店となる今月11日には、茨城県の霞ケ浦で仲間らと捕獲したアメリカナマズのフライを中心に、多摩川上流のアメリカザリガニのかき揚げも提供する予定だ。  稲田公園には、多摩川の生態系を守ろうと精力的に活動し、3年前に62歳で亡くなった山崎充哲(みつあき)さんが設置した「おさかなポスト」が2019年まであった。ハットリさんは山崎さんの活動を知っており、「キッチンカーのスタート場所としていい」。山崎さんの長女愛柚香(あゆか)さん(31)も「次の世代による活動はとてもうれしい。おいしくて資源になると認知されれば、外来種の問題解決につながる可能性がある」と喜ぶ。

◆いつかは「在来種」キッチンカーに

アメリカナマズ=茨城県稲敷市で

 ただ、ハットリさんは「10年も20年も外来種キッチンカーをやりたくはない」。食用として人気になれば、養殖など産業化につながりかねず、外来種の駆除と在来種の保全という本来の目的と逆行する。「ゴールは生物多様性が保たれること。いつか在来種キッチンカーにするのが目標」  ハットリさんは「ブラックバスを魚として愛しているので、悪者にされているのはつらい。ペットは責任を持って飼い、自分が釣りたいからと勝手に魚を放流しないで」と呼びかける。  キッチンカーは11日午前11時から。各メニュー800円、数量限定で売り切れ次第終了。今後は都内や横浜市などでのイベントに芸人として出演する際に出店予定で、本格稼働は秋以降の見込み。詳細はハットリさんのX(旧ツイッター)で。  ◆文・北條香子  ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 

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