東京23区の火葬場の料金が高騰している。ここ数年、運営する民間事業者による値上げが続き、料金の高さを敬遠して遺族が火葬を拒むケースまで出ている。こうした事態に、都議会や区議会では、公設火葬場の整備を求める議論も浮上。火葬事業は自治体による運営を前提とされており、民間頼みだった23区特有の事情によるひずみが表面化した形だ。(渡辺真由子)

都内唯一の都営火葬場「瑞江葬儀所」。23区内にはこのほか、一部事務組合運営の「臨海斎場」と民間による7火葬場がある=東京都江戸川区で

◆火葬料 全国的には1万~2万円だが…

 「費用が高くて火葬できない」。都内のある区では昨年、親戚の遺体の引き取りを住民が拒否する事例があった。区は引き取り手がない「行旅死亡人」として火葬を引き受けたという。  23区の火葬場は9カ所あり、このうち、最大手の東京博善(港区)が6カ所を担う。料金は4年前は6万円を切っていたが、近年は値上げを続け、今は9万円に達する。都と広域組合運営が運営する公営火葬場は2カ所あるが、料金は民間相場と事実上連動するため都外地域より高い4万~6万円。残る1カ所は民間運営「戸田葬祭場」で8万円だ。  厚労省の通知では、火葬事業について「原則として経営主体は地方自治体」とする。全国の火葬場のうち99%が自治体などの公営で、料金は1万~2万円。これに対し、人口が密集し火葬場の新設が難しかった23区では、民間事業者が寺院など古くからあった火葬場を買収し、規模を拡大した経緯がある。

◆「23区内は大手1社のほぼ寡占状態」

 都葬祭業協同組合の鳥居充副理事長は「費用を理由に別れの機会を奪うのであればあまりにも切ない」と話す。  荒川、新宿など計6区は昨年、最大手の東京博善に対して、火葬料金の算出方法などについて合同で立ち入り調査したが、報告を受けるにとどまった。料金設定に許認可は不要で、自治体が関与した例は過去にない。値上げは燃料費や人件費の上昇、設備修繕費などが理由といい、関係者は「改善指導するには、根拠をどこに置くのか難しい」と漏らす。  こうした中、都議会では今年3月、予算特別委員会で関口健太郎議員(立憲民主)が「火葬料が値上げされても、23区の都民は受け入れざるを得ない」と指摘。中野、墨田両区議会は23年、火葬場の公共性を確保するための公営火葬場の建設に関する陳情を採択した。今後、火葬場建設の可能性について調査などを実施する。  都内の公明党議員はプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、複数区で公営火葬場をつくる検討を始めた。同PT幹事長を務める加藤雅之都議は「23区内は大手1社のほぼ寡占状態。株の取得などを通じて行政が経営関与できるようにするか、公営の火葬場を建設するなどの対応を進めていく必要がある」と訴える。    ◇   ◇  23区内の火葬場6カ所を運営する東京博善は、印刷業などの子会社を持つ持ち株会社「広済堂ホールディングス(HD)」の100%子会社。広済堂HDを巡っては21年から、家電大手「ラオックス」の経営などで知られる中国人実業家羅怡文氏の関連会社などによる株の取得が進み、現在では羅氏関係の企業2社が計約22%を保有。羅氏は24年には会長に就任した。  東京博善の決算公告によると、20年3月期決算では当期純利益は17億円、21年3月期決算は16億円だった。しかし、22年から純利益が大幅に拡大。同年は21億円、23年は20億円、24年は35億円に急伸した。広済堂HDの広報担当者は取材に「利益からは、火葬炉の修繕などに使う積立金も出している」とし、値上げは妥当との見解を示している。 

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