金沢市の「金沢温泉 金石(かないわ)荘」が、能登半島地震の発生直後から被災者支援を続けている。無料の入浴支援のほか、2次避難所として宿泊の受け入れも。断水で入浴できず、行き場所のない被災者にとって、まさに「命綱の湯」となった。副社長の吉田哲郎さん(39)は「銭湯の社会的役割を再認識できた」と振り返る。(柴田一樹)

宿泊用の居室も備えている「金沢温泉 金石荘」=金沢市金石本町で

◆断水で最大640人が殺到

 揺れが襲った元日の午後4時過ぎ、金石港近くの金石荘には約50人の客がいた。全員無事で、施設は一部損傷したが、大きな被害はなかった。客を近隣の避難所などに向かわせて営業を終えると、翌朝から電話が鳴りやまなくなった。「お風呂やってますか」  断水の影響で入浴できない被災者を中心に640人が殺到。1日あたり過去最多の人数だった。3日からは被災者向けに無料開放し、連日200人超が利用した。シャンプーなども貸し出した。被災者から聞く惨状と「気持ち良かった。すっきりした」とほころぶ表情に使命感が生まれた。

◆2週間ぶりに入浴に感動「素早い提供ありがたい」

 6日には初めて宿泊希望の電話が入った。生活環境が悪化していた1次避難所で暮らす石川県輪島市の女性から。「他は断られてしまい、どんな部屋でもいいので」と声は憔悴(しょうすい)しきっていた。普段は学生の合宿などに利用する2階の和室10室に無料で受け入れると、着の身着のまま逃げてきた家族らですぐに埋まった。  「今年初めてのお風呂だった。本当にうれしかった」。1月14日から金石荘へ避難している同県珠洲(すず)市折戸町の高堂博美さん(39)は、2週間ぶりに入浴できた感動を忘れない。自宅は半壊で住めず、余震が頻発。県が調整する2次避難所の手配も手間取る中、「安心して過ごせる住居を素早く提供してくれてありがたかった」と感謝する。

◆「銭湯は人と人のつながりを支える場」

 被災者支援に奔走する金石荘のスタッフは多忙を極めた。午後11時に銭湯を閉店すると、午前4時ごろまで無償で貸し出したバスタオルなどの洗濯に追われ、午前6時には避難者用の朝食の準備を始める毎日。「とにかくがむしゃらだった」と吉田さん。元々は食事を提供していなかったが、栄養バランスに考慮した3食を必ず提供した。

食事を被災者に手渡す吉田哲郎さん(左)=金沢市の「金沢温泉 金石荘」で

 次第に金石荘の支援活動を知った地元企業などが物資を寄せ、ボランティア団体も駆けつけて手伝ってくれた。2月以降は県が正式に2次避難所に指定し、避難者の宿泊代や入浴代などが公費で負担されるようになった。  2次避難を巡って、県は応急仮設住宅や「みなし仮設」への移行を推進。金石荘も8月から避難者数は28人から9人に減った。ただ、応急仮設住宅の完成を待っていたり、被災地に残る家族と離れて金沢で仕事を探したりと、次の住まいが決まっていない避難者がいるため、受け入れを継続するつもりだ。吉田さんは「この場所で再会を果たす被災者もいて、銭湯は人と人のつながりを支える社会的なインフラなんだなと改めて思えた」と力を込めた。 

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