新潟県柏崎市の海岸で昨年10月、同市消防本部の男性消防士長(当時26)=消防士から特別昇任=がダイバー養成訓練中に水死した事故で、同市消防本部が設置した第三者による「事故調査・再発防止検討委員会」(委員長・小林彰弁護士)は22日、報告書を小林晴久消防長に提出した。報告書は「直接的な原因の究明は困難」としたうえで、背後要因として男性の健康状態の情報共有のほか、安全管理態勢にも問題があったとして「組織の危機管理意識の甘さ」を指摘した。

 事故は昨年10月13日、同市の番神海水浴場で起きた。男性が指導者1人、訓練者2人と沖合に向かう途中、波打ち際から約68メートル、水深約4メートルの地点で溺れ、病院に搬送されたが、翌日死亡した。同市消防本部は昨年11月、学識経験者や専門家らによる第三者委員会を発足させた。

 報告書はおぼれた原因について、装備の不具合や急病発症など複数の可能性を挙げて、「どれか一つに絞り、特定することはできない」とした。

 一方、組織的な問題として、男性が訓練の2日前に、潜水に必要な耳抜きがうまくできないとする不安を上司に伝えたものの、その情報が指導者に共有されていなかったことを指摘した。

 同市消防本部では、資機材を効率よく使うため、2018年以降は指導者1人が4~5人を教える少人数制とする一方、陸上の安全監視員は置かない態勢を取っていた。また資機材に関しては、メーカーが勧める年1回の定期点検を行っていなかった。

 総務省消防庁は2020年に山口県で潜水訓練中の死亡事故が起きた後、「安全監視員の配置」「資機材の点検・確認の徹底」などを求める通知を出していた。報告書は「安全よりも効率性を優先した活動が許容される状態だったと考えられる」として、通知に関して「署員へ周知するのみで、活動に反映するための活動計画等の再点検は行われていなかった」と明らかにした。そのうえで「事故は発生しないだろうと思い込んでいたと推定される」とし、再発防止に向けて「安全を最優先にする組織風土の構築」を求めた。

 小林晴久消防長は「指導者任せで、上司による管理監督が欠如していた。市民の命を守るための訓練は、万全な安全管理態勢を取ることが大前提だ」と語った。同市消防本部は再発防止策を講じたうえで、海ではなく、プールでの訓練を再開したいとしている。(戸松康雄)

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