東京都内に住む在日韓国人3世の金正則さん(69)がX(旧ツイッター)上で、差別的投稿を繰り返されたとして高校の同窓生に損害賠償を求めた「在日の金くん」訴訟。今月行われた弁論準備手続きで被告側から謝罪と和解の提案があったというが、金さんは「判決での解決を求めたい」と応じなかった。その理由とは。(山田雄之)

◆謝罪文自体は「真摯に見えるんです」

 「そのもの自体は真摯(しんし)に見えるんです。『精神的苦痛を与えてしまったことを謝罪します。誠に申し訳ありませんでした。深く反省し、再発防止に努める所存です』って」。金さんは今月2度目の弁論準備手続きがあった26日に川崎市内で開いた会見で、被告側から提訴後の4月に届いていた謝罪文を紹介した。

被告側の和解提案に応じなかった理由を話す金正則さん(左から2人目)=26日、川崎市内で

 被告の男性は2021年3月~今年1月、Xで「在日の金くん」と呼びかけながら「朝鮮人ってやっぱりばか。救いようがない」「君の仲間がまた凶悪な罪を犯した」などと15件の投稿をした。金さんは3月、福岡県の高校の同学年だった男性を相手取り、「ヘイト投稿」で人格権を侵害されたとして慰謝料など110万円の支払いを求め、東京地裁に提訴した。

◆被告はヘイトとは認めていない

 5月の第1回口頭弁論で被告側は請求棄却を求めて争う姿勢を示したが、今月10日の1回目の弁論準備手続きでは改めて「発言内容が適切でなかった」と謝罪し、和解を提案。金さん側は対応を検討し、26日の手続きで判決を求める考えを示した。  金さんは裁判所に上申書を提出した。被告が謝罪文を出した後も「また出た、朝鮮人の犯罪。止まらないね」「被差別者がなくならない限り、差別はなくならないよ。分かってる?」と投稿していることを指摘し、「謝罪文とのギャップにあぜんとする。ヘイトスピーチを繰り返す以上、私の精神的苦痛は解消されない。判決で、投稿が不当な差別的言動と認定してほしい」とした。  そもそも被告側は謝罪はしているが、投稿内容を「ヘイト」とは認めていない。在日の当事者が書いた本2冊を根拠として「在日朝鮮人の日本での犯罪に心を痛めて発信していた」と主張している。次回の9月の手続きまでに具体的な反論を示すという。

◆「犯罪傾向」根拠の記載がない

 金さんの会見に同席した「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」の岩下結さんはこの2冊について、「日本人の差別感情をあおる数多い『ヘイト本』の一つという印象だ。在日朝鮮人の犯罪傾向が強いとの根拠になるような記載はなく、証拠になるのか」と首をかしげた。  金さんの代理人の神原元(はじめ)弁護士も会見で、「犯罪と民族を結び付ける差別は昔からあるが、あまり意識されていない。ヘイトスピーチの典型例なのに」と問題点を指摘した。

◆「社会のため」とは何か、真正面から

 神原氏は、裁判所からも和解を勧められたと明かした。その背景には日本に差別禁止法がない現状があるという。「私人間の差別はすぐに違反とはならず、名誉や名誉感情の毀(き)損(そん)という従来の枠組みでの判断になる。個人のけんかに思われ、『謝っているなら和解どうでしょう』となる」とみる。  今後の訴訟について、神原氏は「人には差別されない権利がある。『人種差別そのものが違法だ』と認定してもらえるよう裁判所を説得したい」。金さんは「被告が『世の中、社会のため』と反論するなら、どちらが本当に『社会のため』なのか、真正面からぶつかるしかない。被害をしっかり訴える」と誓った。 

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