◆「八王子の未解決事件の現場を踏んだ」と話すのを聞いた
捜査関係者らへの取材で、男は「当時40歳前後。身長約165センチの普通体形。目は一重」とされる。中国福建省出身で1992年以前に入国し、警視庁が存在を知った2010年ごろは主に都内東部で生活していた。 1990〜2000年代に各地にあった中国人強盗団のうち、男は都内が拠点の福建省出身者らの組織に属していた。ナンペイ事件と同様に粘着テープで被害者を拘束する手口が特徴だった。流ちょうな日本語を話し、日本人の名前をかたっていた。今は駐車場となった現場に2024年6月、情報提供を求める新しい看板が設置された=東京都八王子市大和田町で
男が浮上したのは、いずれも日本人男性の元受刑者、元死刑囚への聴取などからだった。元受刑者は2009年、警視庁の調べに「2004年ごろ、知人の紹介で面倒を見た強盗団の男が『八王子の強盗殺人の現場を踏んだ。未解決だ』と話していた。ナンペイ事件だと思った」と証言した。 元受刑者の知人の元死刑囚=中国で2010年に死刑=は「同じ中国人を知っている」と話し、別の福建省出身の男性の名前を挙げ「『店の売上金が多く保管されている日を実行役に伝えた』と言っていた」と話した。 警視庁は2013年、元死刑囚の言う「福建省出身の男性」をカナダから移送し、旅券法違反容疑で逮捕。ナンペイ事件当時の行動を調べた。男性は1990年代の大半を首都圏で過ごしていたが「事件も八王子の地名も知らない」と関与を否定した。 男性は2014年に同罪で有罪判決を受けた直後に帰国。強盗団の男は特定されないままとなっている。現在の捜査幹部は取材に「過去の話は知らない」と語った。八王子スーパー強盗殺人事件 1995年7月30日午後9時15分ごろ、八王子市大和田町4にあったスーパー「ナンペイ大和田店」の2階事務所で、いずれもアルバイトで高校2年の矢吹恵さん=当時(17)=と前田寛美さん=同(16)、パート従業員の稲垣則子さん=同(47)=が頭を拳銃で撃たれて殺害された。事務所の金庫に弾痕があったが、中の現金約500万円は残っていた。解決につながる情報には600万円を上限に懸賞金が支払われる。情報提供は八王子署=電042(621)0110=へ。
◇◆「拳銃の音聞いた人も少なくなった」風化を憂う友人ら
蒸し暑い夜だった。事件当日、住宅街の一角にあったナンペイ大和田店の隣に住んでいた女性は「バンバン」という音を数回聞いた。女性らが証言した「午後9時17分」が、拳銃の発射時刻と断定された。 今年5月末、女性を訪ねると、20年ほど前に亡くなっていた。夫(77)は「拳銃の音を聞いた人も少なくなった」と語る。現場跡に立つ事件を伝える看板には、落書きのような複数の引っかき傷。記憶の風化を物語る古い看板は6月、新しい物に替えられた。矢吹さんの写真と、生前の姿をイメージしたヒマワリを前に事件解決を願う鷹野さん=東京都町田市で
発生30年目を迎える事件は関係する情報が年々失われ、記憶の風化も懸念される。警視庁への情報提供はかつて年間100件を超えていたが、近年は30件ほどにとどまっている。犠牲者の友人らは現実を受け止めながら「あきらめずにいたい」と、今も犯人逮捕の知らせを待つ。 犠牲になった矢吹恵さんの同級生らは7月20日、母校の桜美林高に集まった。写真と、生前の矢吹さんのイメージに合うヒマワリを供え、手を合わせた。中高の同級生で親友だった鷹野めぐみさん(46)は「事件が解決しても矢吹は戻って来ない。それでも区切りがついてほしい」と涙を流した。(鈴鹿雄大) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。