パリ五輪でのテレビ観戦を狙い商戦が本格化してきた家電売り場=名古屋市千種区のアピタ千代田橋店で

 パリオリンピックが開幕日を迎えた。このスポーツの祭典の度に話題になるのが「五輪商戦」だ。しかし、醜聞にまみれた前回東京大会からわずか3年、日本中が熱狂するほどの盛り上がりには至っていないようだし、物価高の折、どれだけの人が五輪のために多額の出費をするだろうか。街の人の声を聞きながら考えた。(曽田晋太郎)

◆「どこでやるの?」「大谷の方が話題」

 「え? オリンピック、もう始まるんですか。どこでやるんでしたっけ」。26日、東京駅周辺に友人と買い物に来ていた東京都内の大学生の女性(19)は驚いた様子で話した。広島県から旅行に来ていた会社員男性(23)は「パリでやることしか知らない」。  妻子と銀座を訪れていた都内の会社員男性(39)は「オリンピックには関心はない。大谷の方がよっぽど興味があるし、周りでも話題になる」と語る。「もちろん関連グッズのためにお金を払おうとも、パリに行きたいとも思いません」と続けた。米大リーグ・ドジャースで活躍を続ける大谷翔平選手のインパクトはやはり大きいようだ。

◆日本代表グッズ、フランスフェアで盛り上げ

 家族で東京を訪れていた名古屋市の会社員男性(50)は「物価高で外食にもお金がかかるのに、オリンピックの関連商品にまで手を出そうと思わない」と渋い表情。神奈川県厚木市の男性(65)は「物価高に賃金上昇が追いついていない中、一部の人はパリに行けるかもしれないが、みんながみんな海外に行ける状況じゃない」と語った。  記者が街で聞いた限りでは、冷ややかな声が目立ったが、恒例の五輪商戦は展開されている。  開幕前、電機メーカー各社はテレビなどの新製品を相次いで発表した。

バレーボール男子の応援Tシャツなどが並ぶ「アルペン ナゴヤ」の店内=名古屋・栄のアルペン ナゴヤで

 スポーツ用品大手のアシックスは6月、日本代表選手が着用するのと同じ仕様のジャケットやポロシャツ、応援グッズのタオルなどを発売。同社の担当者は「売れ行きは好調で、一部商品は完売した」と話す。  スーパー大手のイオンは、現地気分を味わってもらおうと、フランス産のワインや食品のフェアをグループ約7300店で今月30日まで開催している。

◆ネットの時代、五輪イヤーでもテレビば売れない

 旅行大手JTBは、開会式のほか柔道、テニス、競泳など5競技の観戦チケットと5つ星クラスのホテルの宿泊を組み合わせた6泊7日のツアーを1年前に販売。1人当たり約400万円するが、先月完売したという。  ただ、五輪だから飛ぶように何でも売れるというわけでもなさそうだ。  26日に都内のある家電量販店を訪ねた。この店の場合、テレビの売り場は五輪仕様ではなかった。販売担当者は「ネットで何でも見られる時代。オリンピックがあるけれど、テレビを購入する人の数は普段と変わらない」と明かす。

◆経済効果は東京大会上回る2560億円と予測

 テレビ離れや「翔タイム」のインパクト、円安、物価高…。こうした現状の中、今回の五輪の経済効果はどうか。  第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、パリ五輪の国内消費押し上げ効果は2560億円で、2021年東京大会の2476億円を上回るものの、2016年リオデジャネイロ大会の2621億円は下回ると見通す。

◆「全体的には下降トレンド」

 永浜氏は「大谷選手や海外サッカーなど今は日常的に日本人選手の活躍が見られるので、五輪の特別感はなくなり、かつてのように皆が熱狂する感じではなくなっている」と指摘。高額な観戦ツアーが売り切れるなどしているが「一部の富裕層や五輪ファンはお金を使うだろうが、全体的な五輪特需は下降トレンドだ」とみる。  一方で「今後の日本代表選手の活躍次第では、その関連商品が売れたり、スポーツの競技人口が増えたり、追加的な押し上げ効果が生まれる可能性はある」と観測する。 

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