「さて、第1回だから、自己紹介でもしておくか」

 こんな書き出しで、専門分野を一般の人にも身近なものにしてくれる研究者がいる。立命館大学准教授で社会学者の富永京子さん=写真=による新連載「あちらこちらに社会運動」が今月、始まった。専門とする社会運動が、一部のテーマや手法に限られるものではなく、もっと多様であることを示そうとする連載だ。富永さんが興味を持った論文の紹介(おもし論文編)や研究者との対話(おしゃべり編)を通じて、「社会運動をより身近で、よりクリエーティブな営みとして捉えよう」と試みる。

 初回のテーマは、誰にとっても身近な「移動」だ。紹介したのは、低所得者や障害者、高齢者などだれもが不利益を被らずに生活を送れる「交通正義」にまつわる、米国のテキサス州立大学のAlex Karner准教授の論文。あわせて、たとえば障害者は公共交通機関を利用しながら自らの姿を「可視化」させ、声を上げる社会運動をしてきたことなどで、合理的配慮の義務化の対象を広げてきたことを紹介した。

 一方で富永さんは、自身は子連れでの移動時は公共交通機関での苦労を避けようとタクシーを活用しているという。それに対し周囲からは、乗らないと状況は変わらない、と言われたことを紹介。自身が「お金のある人しか選べない手段を用いてしまうことで『不公正』を温存している、とも言える」と認める一方、心を疲れさせないためには「そこそこ快適に移動しつつ、それでもそこそこ運動をやっていく、というやり方もあり得るのでは」と投げかけるのだ。

 第2回では初回の内容を受け、立教大学教授で「巡礼ツーリズム」などについて研究する、民俗学者の門田岳久さんと対談した。

 この連載が、社会を変える一歩を、軽やかにしなやかにすることを願っている。(金沢ひかり)

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