「街中にベンチが少ない」との投稿が読者からあり、東京23区を取材すると、歩道へのベンチ設置に取り組むのは10区にとどまることが分かった。住宅が密集し、道幅が狭い東京ならではの街路事情が背景にあるようだ。ただ、住民の声が行政を動かし、設置に乗り出す流れも出てきた。 (瀬野由香)

◆歩道へのベンチ設置は10区どまり

長崎十字会商店街に置かれたベンチに座る買い物客。ベンチには区のステッカーが貼られていた=東京都豊島区で

 「妊娠中や、子どもの抱っこに疲れた時に座って休みたかった」。東京都中野区の40代女性は、街中で座りたくなってもベンチがなく困った経験を東京新聞に投稿した。  中野区の担当者は「ベンチがほしいとの声はあるが、歩道の幅が足りない」と悩ましそうに話す。  国土交通省は1994年の通知で、歩道にベンチを設ける際、設置後に2メートル以上の通行スペースが確保されていることを求めた。車いす同士がすれ違えるようにするためだ。

◆「設置要望あるが、歩道の幅が足りない」

 住宅密集地が多い中野区は、幅が狭い歩道も多く「適地」が少ないという。  ほかにも「住民から治安悪化の懸念が出る」(墨田区)、「住民の要望がない」(千代田区)などの理由で13区がベンチ設置を事業化していない。ただ、荒川区などは要望があれば個別に検討するとしている。  一方で、中央、港、渋谷など10区がベンチの設置事業を実施や計画。道幅が十分な歩道にバリアフリー推進策の一環で置いている。

◆民有地への設置に杉並区は5万円まで補助

東京都豊島区のベンチプロジェクトのステッカー

 杉並区は7月から、商店街などの民有地にベンチを設ける際、上限5万円の補助を始めた。区の担当者は「住民との意見交換で『買い物途中に座って休めたら』との声があった」と、きっかけを説明した。  豊島区は、既にある民間のベンチに「みんなのベンチ」と記したステッカーを貼り、気軽に使えるベンチを増やそうとしている。同区の長崎十字会商店街内のベンチにもステッカーが貼られ、和菓子店主の古川耕司さん(52)は「高齢者にとってはベンチがあるだけで助かるのでは」と話す。

◆ベンチがあれば「ひと休みできるから外へ行けるね」に

 同区は、50万人以上の都市での独居高齢者率が全国1位(2020年度国勢調査)で、高齢者の孤立防止が課題。昨年度、区民から募った事業提案に「街中にベンチがほしい」との声が多数寄せられた。  これを受けて区は本年度、新たにベンチ20台程度を購入し、地域からの要望に合わせて設置する。関連事業に325万円を予算計上した。区高齢福祉課の今井有里課長は「『歩くの大変だから外出やめよう』が『あそこでひと休みできるから外に行けるね』に変わってほしい」と期待する。

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