難病の子どもの夢を支援する公益財団法人「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」。夢の力を伝え、活動を広めようと学校などで講演をしてきた元事務局長の大野寿子さん(73)が、自身のがんが進行したことを機に、著書を増刷して届ける「最期のプロジェクト」を進めている。
大野さんは18年間、団体の事務局長を務め、定年で退いた後も「種まき役」としてボランティアで講演を続けてきた。転移した胆管がんが見つかったのは今年2月。6月から抗がん剤治療をやめ、自宅で過ごす。同月、「最期の大野プロジェクト」と名付けたSNSアカウントを作り、活動を広めてくれる人を対象に著書「メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた」(KADOKAWA)を届け始めた。
「子どもたちが命をかけて教えてくれた素敵なメッセージを、私はもう講演で伝えられない。だから、それが詰まっているこの本に託すことにしたの」と大野さんは語る。
本には、重い病を抱えながら生きる子どもたちや家族の物語が、たくさん紹介されている。
病で言葉が出なくなった7歳の男の子が、イルカと遊ぶ夢がかなって「ありがとう」「お母さん」と声を発し、周りを驚かせたこと。「アフリカの子どもたちに鉛筆を贈りたい」と願った女の子が、モザンビークの子どもたちが喜ぶ動画を見た後、うれしくて泣いてしまったこと――。
出版は2017年。増刷は止まっていたが、大野さんが買い取る条件で出版社に増し刷りを依頼し、「広報に力を貸してくれる方に無料で配ります」と公表すると、「まとまった冊数を買いたい」「代金を払うから送って下さい」「このプロジェクトや法人にお金を寄付したい」「発送作業を手伝いたい」といった支援の声が続々と届いた。
「想定を超えた後押しをたくさんいただいて、私の夢が実現し、さらに大きく育っていった」と大野さん。「これまで本や講演で『1人の夢が周りに伝われば、応援してくれる人が必ず現れて広がるよ』と伝えてきたけれど、その通りになった。ひとりじゃない、ということを、いま実感しています」と話した。
合計3千部を用意したが、既に残りは少ないという。希望者はメール(book.yumenojitsugen@gmail.com)を送り、返信メールに記された入力フォームから申し込む。(上野創)
公益財団法人「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」は、1980年に米国で、白血病の男児(7)の警察官になりたいという夢を地元の人たちがかなえ、「名誉警察官」に任命して任務を体験させたことから世界に広がった活動。日本支部は92年12月に設立され、94年、東京に事務局を移した。現在、国内に6支部がある。3歳~18歳未満の難病の子どもの夢をかなえる手伝いをし、生きる力や病気と向き合う気持ちを支える。年間約200件の依頼があり、夢をかなえた子どもの数は累計で4千を超えている。
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