選挙で立会人がカメラを通して投票の公平性を確認する「オンライン立ち会い」が19日、全国で初めて鳥取県江府町長選(21日投開票)の期日前投票で実施された。公職選挙法で決められた立会人のなり手不足から全国的に投票所が減少するなか、投票率の低下に歯止めをかけることが狙い。

 公選法の規定で一つの投票所に立会人を2~5人配置しなくてはならない。町施設に設けられた期日前投票所内では、壁際にカメラ付きのモニターが置かれた。モニターに映るのは約2キロ離れた町役場にいる立会人。投票所には別の立会人がもう1人いて、リアルとオンラインの2人が見守るなか、有権者が一票を投じた。同町長選では、オンライン立ち会いはこの日のみの実施となる。

 期日前投票をした町内の80代男性は「いつも通りスムーズに投票できた。違和感はなかった。高齢者は足腰が弱いので、家の近くに投票所は必要。人口減少のなか、いい試みなので全国に広がってほしい」と話した。

 オンライン立ち会いを視察した東北大大学院の河村和徳准教授(政治学)は「選挙を支える人をそろえるのが難しくなるなか、今後、オンライン技術の活用は必要になってくる。日本の選挙が抱える様々な問題に応用できる重要な取り組みだ」と話した。

 江府町長選にはいずれも無所属で現職の白石祐治氏(64)と、新顔の末次美喜枝氏(74)が立候補している。投票は21日午前7時~午後6時、町内5カ所であり、午後8時から町役場で即日開票される。(渡辺翔太郎)

投票立ち会いのオンライン化 どうして必要?

 オンライン立ち会いはなぜ導入されたのでしょうか。

 ――そもそも、投票立会人とは?

 投票が公正に行われているか監視する人のことで、公職選挙法の規定で一つの投票所に2~5人配置しなくてはならない。有権者の代表が選挙執行に参加するという意味もあり、大切な存在だ。

 ――どのようにオンライン化する?

 テレビ会議で使うモニターつきのカメラを投票所に設置し、離れた場所にいる立会人が映像を通して投票を見届ける仕組みだ。

 ――どうしてオンライン化?

 立会人の不足が理由だ。多くの投票所で、立会人は日曜日の午前7時から午後8時までいなければならない。日当は1万円程度で、担い手の確保が課題になっている。都市部に比べて人口が少ない地方部は、状況がより深刻だ。

 ――オンライン化しても結局は確保しなければ人数は同じでは?

 立会人は投票所のある地区の選挙人名簿登録者から選ぶ必要があったが、2019年の公職選挙法の一部改正で、有権者であれば場所を問わず立会人になれるようになった。

 このため鳥取県は最終的に、立会人の確保に悩む地方部と、有権者の多い都市部をオンラインで結んで地方部の立会人不足を解消することなどをめざしている。

 ――立会人が確保できないとどうなる?

 投票所の数を減らさざるをえない。鳥取県内ではピーク時に581カ所あった投票所が、昨春の統一地方選では359カ所に減った。

 市町村合併の影響もあるが、平成の大合併に一区切りがついていた2012年の衆院選以後に投票所を減らした鳥取県内の自治体のほとんどが、投票所を廃止した最大の理由に、「立会人の確保困難」をあげていた。

 ――投票所が減ったらダメなの?

 自宅近くの投票所が廃止されると、遠くの投票所に行かずに棄権する人が出てくることが危惧される。昨春の鳥取県知事選と県議選では投票率が初めて50%を下回った。この事態を受けて県は、投票率低下の防止を目指す研究会を立ち上げた。その提言の一つに、「オンライン投票立ち会い」があった。

 ――法律上の問題はない?

 元自治・総務官僚で選挙制度に詳しい平井伸治・鳥取県知事は、今年2月の記者会見でオンライン投票立ち会いの導入を表明した。

 記者から「総務省は立会人が現に立ち会うことを想定しているのでは」と問われると、「(立会人が)リアルでなければならないというのは(公職選挙法の)解釈論。朝から晩まで座っている人をつくらなきゃ、投票所を設置してはいけないのか。誰かがブレークスルーしなきゃいけない。私たちは戦います」と言い切った。

 そして総務省は4月下旬、鳥取県にある通知を送った。通知では、投票所への少なくとも1人の立会人配置や、オンラインでも投票所全体の様子を把握可能にすることなど6項目の順守事項を示していた。国がオンライン投票立ち会いを事実上認めた格好だ。(渡辺翔太郎)

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