地方に住む小児らの重症患者を治療しながら小型ジェット機で都市部の高度専門病院へ運ぶ試験運航を、医師らでつくる認定NPO法人が重ねている。7月上旬までに5人の患者を東京や愛知などの病院へ搬送。現在は寄付金で運航しているが、国の事業による実施を目指しており、「医療ジェット機でないと救えない命がある」と支援を訴えている。(五十住和樹)

医療ジェット機に運び込まれる2例目の患者=鳥取県米子空港で(JCCN提供)

◆高度な治療ができる施設は都市部に集中

福岡空港から羽田空港へ向かう機内での4例目の患者の様子=JCCN提供

 「血管が気管を締め付けている肺動脈スリングや気管狭窄(きょうさく)を患う0歳男児がいる」。6月上旬、九州の病院から東京都立小児総合医療センター(府中市)に連絡があった。  これらの疾患を治療できる施設は同センターなどに限られている。集中治療科の森本健司医長(40)ら搬送チームが同月17日早朝に飛行機で九州の病院へ向かい、必要な資機材などを準備。1時間45分の飛行を含め約4時間で転院した。機内では呼吸管理に細心の注意を払ったという。患者は気管を広げる手術を受け、小児集中治療室(PICU)で治療を続けた。  7月2日には新潟大医歯学総合病院に入院中の虚血性心疾患による重症心不全の60代男性を、都内の大学病院に運んだ。男性は体外式の人工心肺ポンプを装着していて、搬送先の病院で植え込み型人工心臓に入れ替えるのが目的。搬送中の急変に備えて医師2人と臨床工学技士1人が乗り込んだ。搬送チームの新潟大医学部の医師堂前圭太郎さん(43)は「東京へ運んだことで救命の連鎖をつなげられた」と話した。

◆ジェット機なら安定・長距離・全天候OK

 試験運航は、認定NPO法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(JCCN、大阪府吹田市)が今年4月から始めた。名古屋空港に常駐し、専用ストレッチャーを備えた中日本航空の小型ジェット機(メディカルウイング)を使っている。通信費や飛行料金など5回の搬送費用約1250万円は寄付で賄った。  重症患者の搬送は、医師らの搬送チームが救急車や新幹線、ヘリコプターなどで行ってきた。ただ、救急車は揺れるなど不安定で、ヘリは長距離や天候不良では飛べない。北海道では2010年からメディカルウイングの運用が行われているが、その他の地域でこうした搬送システムはない。

◆「ジェット機が必要な事例、相当数ある」

福嶌教偉さん

 重症患者の搬送を開設当初から行ってきた都立小児総合医療センター。森本さんは「新幹線などに比べ医療ジェット機は安全に運べて搬送時間も短く、患者のプライバシーを確保できる」と指摘。「搬送のスキルを備えた小児救急医を増やすことが重要」と話す。  JCCNは来年3月に試験運航の成果をまとめ、国の事業化に向け要望書を出す方針。心臓血管外科医でJCCN理事長の福嶌教偉(ふくしまのりひで)さん(67)は「試験運航で、小児も成人もジェット機での搬送が必要な事例が各地で相当数あると分かってきた」と話す。    ◇   ◇      JCCNは運航を続ける費用確保のため、10月6日までクラウドファンディングを実施している。目標額は1億円。 

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