◆ざっくりいうと

 海底火山の隆起で津波が起こることを示した。

三反畑修(さんだんばた・おさむ) 1991年、茨城県谷和原村(現つくばみらい市)生まれ。2015年、東京大理学部卒。20年、同大大学院理学系研究科博士課程修了。23年、同大地震研究所助教。23年の国際火山学及び地球内部化学協会の集会で全体講演者に選出。

海底火山の活動で起きる津波について語る東京大地震研究所の三反畑修助教

 伊豆諸島の近海で謎の津波がおよそ10年間隔で繰り返し起きています。40年前から知られている現象ですが原因ははっきりしないままでした。東京大地震研究所の三反畑(さんだんばた)修助教(32)は、津波と地震の観測データの分析から、海底火山の活動が津波の原因だということを突き止めました。世界の火山の大半は海底にあります。ほとんど明らかになっていない海底火山の活動に迫りたいといいます。 (永井理)  -謎の津波というのはどんなものですか。  鳥島の約100キロ北の海底にある活火山「須美寿(すみす)カルデラ」付近では、ほぼ10年ごとにマグニチュード(M)5クラスの地震が起き、そのあと最大1メートル程度の津波が観測されていました。記録では1984年、96年、2006年、15年、18年に発生しています。地震と津波は関係あるとみられますが、M5規模の地震では普通はこんな津波は起こりません。これが謎でした。  -確かに不思議ですね。40年近くも解決していなかった問題に取り組むきっかけは。  話はさかのぼりますが、大学の合格発表の翌日に東日本大震災が起きました。だんだん地震研究に興味が湧いて地球惑星科学を専攻し、卒業研究は津波と火山性の地震をテーマに選びました。そして大学院に進んだ1カ月後に、この謎の地震と津波が発生したのです。15年のことです。

◆ぴたりと一致

 -巡り合わせですね。  大学院で指導を受けた佐竹健治教授(当時、現特別研究員)も1984年の津波を分析したそうですが、当時はデータやコンピューターの能力が十分ではなく謎は解決しませんでした。そんなこともあり今度は私が取り組むことになりました。研究を始めたばかりでしたが、こういう分かっていない現象があるのだと興味を持ちました。  最初は、火山性の津波なんてけっこう変わった研究ですね、という雰囲気でした。しかし2022年にトンガの海底火山が噴火して大規模な津波が起きてから少し風向きが変わりました。海底火山にも津波発生のリスクがあると認知されたと思います。  研究ではまず、海底に置かれている津波計や海岸の検潮所などで観測された津波のデータから、津波の発生源を突き止めました。  -どうやって突き止めるのでしょう。  地震などによって海底が急に隆起したり沈降したりすると、その影響で海面も変動し、隆起したり沈降したりします。その海面の変動が周囲に広がって津波として観測されます。逆に、観測データから、津波のもとになった海面の変動を割り出すこともできます。インバージョン(逆解析)という方法です。  M5級の地震が発生している、須美寿カルデラという海底火山の周辺を津波の発生源と考えました。コンピューターシミュレーションによってその範囲にいろいろな海面の変動を起こし、その中から実際の観測データに最も近い津波が出る変動を求めるのです。  その結果、ちょうど須美寿カルデラの真上の海面が盛り上がるような変動が起こったということが分かったのです。  -図を見ると、海水の盛り上がりがカルデラにぴったり一致していて驚きました。  この結果から、カルデラで何かが起こったのだろうと分かりました。しかし、何が起こって海面が隆起したのか。可能性を調べているうち、トラップドア断層破壊という現象に行き着いたのです。  南米ガラパゴス諸島の火山で観測されている現象ですが、それほど知られてはいませんでした。カルデラのくぼ地の底の岩盤がマグマに押されて短時間で持ち上がるのです。だから海面も持ち上がって津波が起こる。これなら大きな地震じゃなくても津波が起きるかもしれない。いけるかも、と思いました。  米国の学会に参加してこの断層破壊を研究している人と議論をしたり、計算法を勉強したりしました。トラップドア断層破壊が起こったと考えて計算してみると観測された津波と地震の特徴をうまく再現できて驚きました。というより、こんなにきれいに再現できるものなのかと感激しました。

◆フロンティア

 -研究のアイデアが出やすい場所や環境はありますか。  アイデアが出るとかいうことではないですが、サッカーで気分転換します。小学校から大学2年までやっていました。今は週末にJリーグの試合を見に行ったり休み時間に少しやったり。地震研ではサッカー部を自称して2人で活動しています。メンバー募集中です。  -今後はどんな謎を解きたいですか。  ニュージーランド北方沖や小笠原諸島・北硫黄島の海底カルデラでもトラップドア断層破壊が起きていることを発見しました。トラップドア断層破壊はずっと起こり続けるのか、どこかで大噴火するのか。原動力となるマグマの動きを、より深く調べたいと考えています。火山の7割は海底にあります。しかも観測が難しくてほとんど手付かず。本当のフロンティアだと思います。

◆トラップドア断層破壊 マグマが岩盤の片側持ち上げ

 トラップドア断層破壊とは、カルデラ状の火山で起こる現象です。カルデラは、地下にたまっていたマグマが噴火で噴き出して地中に空間ができ、その上の岩盤が円形に落ち込んでできた巨大なくぼ地です。その地下に再びマグマがたまってくると、落ち込んだカルデラ底の岩盤を持ち上げる力が働きます。岩盤の周囲と、それに接するカルデラの内壁は、円筒状の断層を形づくっています。  マグマが限界までたまると、この断層がバリバリとはがれて短時間で岩盤が持ち上がります。そのとき特徴的な地震波が出ます。しかも岩盤全体ではなく、跳ね上げ戸(トラップドア)のように片側だけ大きく上がるため、効率よく海面を隆起させます。このため地震規模は大きくなくても津波が起こるのです。


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