2025年の大阪・関西万博を契機に、京都や大阪の中心部に偏りがちなインバウンド(訪日客)を、地方に呼び寄せようとする活動が始まった。富裕層が増えている東南アジアの旅行会社に熱視線を送り、海外で認知が浸透していない万博と組み合わせた周遊ツアーに期待を寄せている。
2月下旬、タイの旅行代理店の担当者9人が、京都府南部の和束町を訪れた。宇治茶の生産が盛んな人口約3500人の町で、農家が茶栽培の方法を説明。実際に抹茶をたてる体験もした。日本でのツアーを企画しているケシニー・ウォンツァイさん(33)は「タイ人は写真を撮るのが好きなので、茶畑の景観は人気が出る。お茶の歴史にストーリー性もあり、ツアーに組み込める場所だと思う」と印象を語った。
主催したのは近畿経済産業局で、タイやマレーシアの旅行会社に地方の産業や体験型施設を紹介する事業の一環。セミナーの参加者は5日間で5府県を訪問し、奈良市の墨作りや、福井県越前市の和紙すきを体験した。
タイの訪日客は年々増加し、2019年には130万人を超えた。新型コロナウイルス禍の落ち込みを経て、2023年は100万人近くまで回復。リピーターが7割に上るといい、投資交流促進課の三浦佳子課長は「人とは違う体験を求める富裕層が多く、地方のコンテンツへの訪問ニーズが高い」と狙いを語る。
観光庁によると、訪日外国人1人当たりの旅行支出は21万2千円で、2019年から33.8%増えた。消費はモノ(買い物)からコト(体験)に移行しつつあり、和束町の馬場正実町長は「農家民宿など体験を中心にした、身の丈に合った観光に取り組みたい」と話す。
万博は本来、外国人観光客を呼ぶ絶好の機会だが、海外での認知向上が課題だ。入場チケットの販売を始めた旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の担当者は「海外からは問い合わせがたまに来る程度。まだあまり売れていない」。
セミナーの最終日には、日本国際博覧会協会(万博協会)の職員が万博のテーマやパビリオンの建設状況を説明。バンコクから参加したパン・クリッサゴーンビジットさん(42)は「万博を起点にしたツアーを考えたい」と前向き。別の参加者は、展示内容がはっきり分からず顧客への紹介の仕方が難しいと懸念し「バスやホテルの値上げも気になる」と話した。
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