車が近づいても、降り向かない。こちらから声を掛けても返事はない。宅配便のドライバーもぎょっとしたらしい。

 岐阜県高山市朝日町の道路沿いに、人と見間違えるかかしが登場した。

 ネット張りのハウスで「3人」が農作業をする。

 前掛け姿の女性はくわで土を耕し、缶コーヒーのロゴ入りジャンパーを着た男性は農薬を散布。ハウスの入り口では、ジャージー姿の男性が草刈り作業に立つ。女性は高齢なのか背中が曲がっているように見え、何ともリアルだ。

 周囲を見渡せば、さらに「4人」いる。

 民家の玄関先では、女性が腰をかがめて草をむしり、別のハウスの外では、一升瓶を抱えてベンチに座る女性たちに、自転車に乗る子どもが近づく。

 ハウスで自家栽培する野菜をサルから守ろうと、この家の清水進さん(72)が今年5月に設置した。

 角材や針金、古新聞などを材料に製作し、5年ほど前から春~秋にかけて立て始めた。あまりのリアルさに、市議選の選挙カーが通る際には「よろしくお願いします」と声が掛かった。

 「動いた!」と驚くケースも。車で通りがかった人は停車すると、かかしと分かったが、別の「1体」が動いた。ハウスに入っていた清水さんの母親(95)をかかしと思い込んで勘違いしたという。

 3年目になると、サルも見慣れたのか、ハウスのビニールが破られる被害が出た。「もう、動くかかしを開発しないとダメじゃないか」と設置をやめていたが、何度も畑を荒らされ、再び今年、設置することにした。

 妻の和子さん(69)が古着を集め、かかしの衣装をすべて着せ替えた。

 その効果か、今年はいまのところ被害は発生していない。

 ただ、ハウスの回りに電気柵を巡らせる対策も施している。清水さんは「かかしよりも、柵の方が効果があるかもしれません」。(荻野好弘)

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