在留資格がなく健康保険にも加入していない埼玉県のクルド人少女(15)が、1泊の入院で、医療費の全額自己負担分を大幅に超える24万円を請求されたことを報じた東京新聞の記事を読んだ2人から、計61万円の支援金が寄せられた。本紙は支援団体に管理を託し、医療費の支払いと少女の学費などに役立ててもらうことにした。(池尾伸一)

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読者からの手紙

◆2読者から61万円、全額を団体に委託

 60万円を寄せた、匿名の読者は「わずかですが入院代と高校進学の資金の足しになれば」と手紙に書いていた。もう一人は「府中市の一ボランティア老人」を名乗り1万円を寄付した。手紙には「国や病院の外国人蔑視は情けなくて涙が出る」とつづられていた。本紙は、家族を支援する埼玉県蕨市の市民団体「在日クルド人と共に」(代表・温井立央さん)に、全額の管理を委託した。

両親とともに読者の寄付に感謝するクルド人少女(中央)

 少女は4月から定時制高校に通う。寄付には「ありがとうございます」と感謝を表し、「がんばって卒業し、在留許可ももらえたら社会に役立つ仕事に就きたい」と話した。

◆「無保険者には1.5倍がルール」と加算

 少女の父親は、トルコ政府に迫害されたとして家族全員を難民申請中。入管施設収容を一時的に解かれた「仮放免」の立場で、健康保険には加入する資格がない。少女は2月中旬、インフルエンザによる高熱で川口市立医療センターに救急搬送され入院した際に、センターから「無保険者には1.5倍請求するのがルール」だとして、10割負担の16万円を8万円上回る額を請求された。家族は支払いに窮している。  厚生労働省の2022年度の調査によると、救急医療機関の2割が無保険の外国人に全額負担を超える割増料金を設定している。厚労省は「無保険の場合、自由診療なので病院の設定する価格に口を出せない」と静観するにとどまっている。

 仮放免者 難民申請の不認定や在留期間の超過などで在留資格を失ったが、病気や子どもの養育などの理由で入管施設に収容されずに生活している人。2022年末時点で計4671人。就労は禁止で、公的な医療保険に加入できず、生活保護も受けられない。

  ◇  ◇

◆仮放免者、民間の支援が命の支えに

 病院が在留資格のない外国人に対し高額の医療費を請求している問題は、仮放免者の健康や医療が軽視されている実態を改めて浮き彫りにした。政府の支援はほとんどなく、NPOや市民による寄付が命の支えとなっている。

1日の入院でクルド人少女に請求された約24万円の診療費=一部画像処理

 NPO法人「北関東医療相談会(愛称・アミーゴス)」は6月2日、群馬県太田市の公民館で仮放免者を対象にした生活相談と検診を行った。約80人が訪れた。診察した医師の越智祥太さんは「お金がないため糖尿病の治療もできず、脳梗塞まで起こして後遺症に苦しむなど、現代とは思えない相談もあった」と話す。

◆「政府も何らかの措置を」

 アミーゴスは年2回の相談会に加え、個別の医療費支援もしている。昨年は117人への資金援助や健康相談会など、全体で約1000万円かかった。長沢正隆事務局長は「民間団体の力では限界がある。人道上の観点から政府も何らかの措置を講じてほしい」と訴える。  寄付の問い合わせは、北関東医療相談会は電080(5544)7577または同会ホームページへ。「在日クルド人と共に」は団体ホームページへ。 

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