旧優生保護法下での強制不妊手術をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁に向かう原告ら(3日、東京都千代田区)

旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、被害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は3日、国の賠償責任を認め、同法は違憲と初判断した。不法行為から20年で賠償請求権がなくなるとする「除斥期間」を適用せず、手術から長い年月がたった原告らにも賠償を求める権利があるとした。

最高裁が法令などを違憲と判断したのは戦後13例目。「戦後最大の人権侵害」と訴えてきた被害者らに対する国の補償のあり方は見直しの議論が避けられない。

判決があったのは大阪、東京、札幌、神戸、仙台の各地裁で起こされた5件の訴訟。1950〜70年代に手術を受けた人やその配偶者ら計12人が起こした。

高裁段階はいずれの判決も旧法を違憲と認定したが、手術から年月がたった原告らに国が賠償責任を負うかは判断が割れていた。

最大の焦点は「除斥期間」を適用するかどうかだった。2023年6月の仙台高裁判決は除斥期間を適用して原告の請求を退けたが、残る4訴訟の高裁判決は除斥期間の適用は「著しく正義・公平に反する」として国に賠償を命じた。

上告審で原告側は旧法下での手術は「同意すら得ずに体にメスを入れた戦後最大の人権侵害だ」と強調。「20年経過しただけで国を免責するのは著しく正義・公平の理念に反する」と訴えた。

国側は除斥期間の例外を広く認めると際限なく過去にさかのぼって訴訟が起こされるようになるため「法的安定性への影響は計り知れない」とし、原告らの請求権は既に消滅していると主張した。

強制不妊手術を巡っては18年以降、全国12の地裁・地裁支部に39人が訴訟を起こした。他の訴訟でも今回の司法判断が踏襲されるとみられる。

▼旧優生保護法 「不良な子孫の出生防止」を目的に1948年に議員立法で制定された法律。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に、本人の同意がなくても不妊手術を可能とした。96年に母体保護法に改正され、手術規定はなくなった。
旧法下で手術を受けた人は約2万5千人に及び、このうち約1万6千人は同意がなかったとされる。平成に入って手術を受けた人も231人確認されており、うち4人は同意を得ていなかった。
2019年4月には被害者らに一時金として一律320万円を支給する救済法が議員立法で制定された。請求期限は当初24年4月までとしていたが、29年4月まで延長された。こども家庭庁によると、支給認定を受けた人は24年5月末時点で1110人にとどまる。

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