1月の能登半島地震で、塗った漆を均等に乾かすための設備が壊れるなどの被害を受けた「小山箸店」(石川県輪島市河井町)が製造を再開し、県外を中心に輪島塗の箸を卸している。市内で箸を製作する店のほとんどが被災し、再開がままならない中、2代目の小山雅樹さん(69)は「やりたくてもできない人がいる中、職人としてやれているのは幸せなこと」と製作に励んでいる。(脇阪憲)

漆を均等に乾燥させるため、一定時間で天地が入れ替わる「回転風呂」=石川県輪島市河井町で

◆塗った漆を乾かす「回転風呂」が破損

 箸の形に加工された県産の能登ヒバの表面に使い込んだはけを使って色鮮やかな朱色の漆を塗っていく。そんな何げない、それでも情熱を込めて打ち込んできた日常が地震で一変した。  自宅兼作業場では、塗った漆を乾かす「回転風呂」と呼ばれる約2メートル四方の室を45年前から使ってきたが、地震で壁の一部が抜けるなど破損。長年使ってきた漆を入れる茶わんも棚から落ちて割れた。壁は崩れ、窓も割れ、外が見えた。もし雨にぬれれば材料の木が傷み、機械も故障する。とっさに家にあったブルーシートやベニヤ板を使い、雨が入らないように応急処置を施した。

◆「手を動かして初めて感覚が戻る」

 マイカーで車中泊をしながら、しばらくは近所で開かれていた物資の配給を手伝った。その間も作業場を片付け、回転風呂の修理が済んだ3月中旬に製造を再開。27歳から40年以上職人として働いてきた小山さんは「(再開した当初は)ぎこちなかったね。こんなに間が空いたことなかったから」と苦笑いする。まだ仕事を再開する見通しが立たない職人を思いやり、「職人は手を動かして初めて感覚が戻ってくる。これまで通りに戻すのは大変だろう」と話した。  小山さん自身の仕事量も地震前と比べて大きく減った。「20分の1とか30分の1とか」。木地を扱う市内の店が被災し、地震前に仕入れていた材料しかなかったためだ。5月中旬になって、ようやく新たな木地を仕入れることができた。  小山さんによると、地震前に20軒近くあった箸店のうち製造を再開できているのは2、3軒ほど。「やれる人が輪島塗の産業を残していかないと」と、はけを握る手に力を込めた。 

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