ロンドン中心部のバッキンガム宮殿で25日夜に開催された天皇、皇后両陛下のための晩餐(ばんさん)会では、心づくしのもてなしが随所に見られた。
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天皇陛下、チャールズ国王はホワイト・タイを着用し、皇后雅子さま、カミラ王妃は白のロングドレス姿。カミラ王妃はこの日皇后さまから贈られたばかりの佐賀錦のハンドバッグを抱えていた。
国王と天皇陛下のスピーチ、そして乾杯のあとには、食卓にスコットランド産ラングスティン(ヨーロッパアカザエビ)のポシェやコーンウォール産ヨーロッパヒラメのフィレのハーブバター焼きレタス包みなど、両陛下の好みを踏まえたとみられる料理が次々と提供された。
実は、日本の皇室が宮中でゲストを迎える際の方法は、英王室のこうした接遇から学んでいる点が多くある。
明治期に近代の天皇制が形作られるにあたり、ドイツ(プロイセン)の立憲君主制を参考にする一方で、ソフト面の「おもてなし」には英国王室が参考にされた。特に、外国賓客の接遇の中核である宮中晩餐会は英国式のしきたりが導入され、現在まで続いているという。
宮中晩餐会の成立過程を研究する学習院大学史料館の長佐古美奈子学芸員は「幕末から交流があり、安定した王室制度を抱く『大英帝国』は日本にとって手本とすべき国だった」と説明する。
そもそも、明治維新後、日本の皇室が「国賓」待遇で外国王族を迎えたのは、1869(明治2)年、当時のビクトリア女王の次男アルフレッド王子が初めてだった。明治政府は宿泊施設を整え、明治天皇との面会を行うなどのもてなしをした。王子本人は喜んだ一方で、英国側からは「国歌の演奏がない」「贈り物としての写真の交換がない」など日本が国際儀礼に通じていないとの「苦情」が寄せられた。宮中晩餐もなかった。
これをきっかけとして、「怒濤(どとう)の西欧化が始まった」。英王室御用達の英・ミントン社へ食器類を発注したり、英国式のマナーを採り入れたフランス料理が提供されるようになったりし、現在まで受け継がれている。
日本の皇室がホストの際もゲスト際も、写真の交換を行うようになり、今回の訪英でも両陛下と国王夫妻との間でそれぞれサイン入りの写真の交換が行われた。
英王室からは明治、大正、昭和、平成と代々の天皇に最高位の「ガーター勲章」が贈られており、今回の訪英で天皇陛下も受章した。宮内庁幹部によると、非キリスト教国の天皇に贈られたこと自体が異例で、5代続けての受章は日英皇室の緊密な結びつきを象徴しているという。
長佐古さんは「英王室にとっても日本の皇室は特別な存在だったことがうかがえる」と話した。(ロンドン=中田絢子)
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