食品配布会で並ぶ人たち(絵・中村真暁)

 毎週土曜の昼過ぎ、東京都庁前にはとてつもなく長い行列ができる。認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(新宿区)などが開く無料の食品配布会。「ありがたい」「ここがあってよかった」。物価高が続く中、みな安堵(あんど)の表情で米や果物が入った袋を受け取っていく。  ここに通い始めた2019年は、100人以下の列だった。それが新型コロナウイルス禍に見舞われ、仕事や住まいを失う人が増えて利用者が急増。コロナの5類移行から1年以上たつが、最近も700人前後で推移し、今年5月下旬には過去最多の800人が訪れた。08年のリーマン・ショック後、日比谷公園に設けられた「年越し派遣村」の約500人も大きく上回る。  利用者の様相も多様化した。以前は路上生活などの中高年男性がほとんどだったが、コロナ後はアルバイトを掛け持ちする若者や、足を引きずって歩く高齢者、赤ちゃんを抱っこする女性も来ている。それぞれが抱える困窮の背景も家庭内暴力や職場でのパワーハラスメント、介護離職などさまざまで、今まで隠れていた貧困の実態が露呈したようだ。  生活保護が必要な人のうち、利用するのは2割という国の推計があるように、必要な社会保障制度を利用できていない人も多い。制度の存在自体を知らなかったり、利用に後ろめたさや恥ずかしさがあったりして、「自分の力で何とかしなければ」と思い込んでしまっている。中には相談に行った役所で職員に差別的な視線を向けられ、追い返された人もいた。  配布会の光景が「普通」の状態として捉えられ、対処されないままほっておかれるのではないか―。にぎわいを取り戻す街中と比較し、最近はそんな不安が募るばかりだ。寄付で成り立つ配布会場のまさにその場所では、24年度に9億5000万円の都予算が計上されたプロジェクションマッピングが行われている。公的機関が果たすべき役割を考えると、違和感を抱かずにはいられない。  そこで、都や区などの自治体職員に呼びかけたい。せめてこの場所で、相談会や生活保護申請を受け付けてもらえないか。配布会は困難さと直面している人々に出会えるチャンス。平日日中に役所へ行けない人や、役所に心理的なハードルがある人は多い。都庁周辺に限らず、同様の支援活動を行っている最寄りの場所でもいいだろう。市民が自ら申し出なければ制度を使えない「申請主義」から前進し、共助から公助につなげるきっかけを生み出せないか。  この春、人々とともに生活課題に取り組む社会福祉士の資格を取った。社会的に排除された人々の解放を促すことが責務の一つ。それは、ジャーナリズムの役割とも重なるように思う。記者として、社会福祉士として地べたから発せられる声に、耳を傾け続けたい。


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