準詐欺の疑いで4人再逮捕 警視庁

再逮捕されたのは、いずれも東京・板橋区の不動産販売会社「インターネット不動産販売」に勤務していた山崎和馬容疑者(41)ら4人です。

警視庁によりますと、2023年6月、80代の認知症の女性に対し、相模原市にあるアパートの1室を購入する契約を結ばせ、3400万円をだまし取ったとして、準詐欺の疑いが持たれています。

この部屋は、容疑者らの会社がおよそ300万円で購入したあと持ち分の半分を女性に高値で販売していました。

高齢者9万人分のリストから“アポ電”か

これまでの調べで4人の関係先からは、80歳以上の高齢者およそ9万人の名前や住所、電話番号が書かれたリストや電話をかける際のマニュアルが押収されていて、このリストをもとにいわゆる“アポ電”をかけ、認知機能の程度を確認していたほか、同居する家族の有無や資産状況などを聞き出していたとみられています。

警視庁はほかにも独り暮らしの認知症高齢者などを狙って50件以上の契約を結び、1年間で7億円余りを売り上げていたとみて調べています。

4人は、同じ女性に対し、東京・青梅市にあるアパートの1室を購入させ、1600万円をだまし取ったとして今月、逮捕されていました。

“詐欺マニュアル”の存在も…

警視庁は、容疑者らが名簿業者から購入した高齢者リストをもとに、詐欺のマニュアルを使って“アポ電”をかけていたとみています。

捜査関係者によりますと、マニュアルには、電話でのやりとりの流れや聞き取るポイントが細かく書かれていました

その内容が取材で明らかになりました。

会話の切り出し方についての指南
「6年くらい前にこの地域の営業担当として1軒ずつ回っていたときに、○○さんから『まだ若いんだから、仕事辞めずに頑張ってね』と声をかけてもらいすごく励みになりました。おからだにお変わりありませんか」

会話を進めるなかで聞き出す点
▼認知機能の程度の確認
▼独り暮らしかどうか
▼デイサービスなどを利用しているか
▼家族との距離感
▼資産状況
▼こちらのペースで話ができるか

「実行役」が自宅を何度も訪問 契約迫ったか

そして、狙いを定めると、「実行役」の社員に自宅を何度も訪問させて、契約を迫っていたとみています。

今回、被害に遭った80代の女性の自宅には、およそ20回訪問し、金融機関に同行して現金を振り込ませたり、インターネットバンキングを使って別の口座に勝手に移したりしていたということです。

また、アパートの部屋の所有権を一部、容疑者らの会社が保有することで簡単に売却できないようにしていたとみられます。

別の被害者の息子が手口語る

高齢の母親がこの不動産販売会社からアパートの1室を売りつけられたという男性がNHKの取材に応じました。

男性の80代の母親は千葉県内で1人で暮らしていて、2018年に認知症の診断を受けたあとも、ヘルパーやケアマネージャーの支援を受けながら元気に生活していたといいます。

家族がお金の不審な動きに気付いたのは去年7月でした。

男性の妹が母親の通帳を確認したところ、2か月前に、300万円が代金の回収サービスを行う会社に振り込まれていたのです。

妹から連絡を受けた男性が母親にたずねましたが、心当たりはまったくない様子でした。

男性が調べたところ、300万円は口座振替サービスを使って、最終的に「インターネット不動産販売」に支払われていたことがわかり、電話で問い合わせると、「相模原市にあるアパートの1室を購入してもらった。本人には納得してもらい、自宅で契約した」などと答えたということです。支払いには、「キャッシュカード」と「暗証番号」があれば、自宅で手続きできるインターネットの口座振替サービスが使われたとみられます。

男性は「担当者は母の名前を出して、『普通に何の問題もなく取り引きさせていただいたと思います』と言うので、『何を買ったんですか』と聞いたら、『区分マンションです』と。何が起きているのか分からず戸惑いました。母親に聞いても覚えておらず、そんなに認知症が進行していたのかと驚き、複雑な気持ちでした」と振り返りました。

相場の10倍ほどで購入させられ…

母親の自宅を探してもアパートを購入した際に渡される「不動産売買契約書」や「重要事項説明書」、それに担当者の名刺も見つかりませんでした。

後日送られてきた契約書を確認すると、母親の字で署名されていましたが、購入したのはアパート1室ではなく、55分の6の持ち分だけでした。アパートのほかの部屋は、1部屋300万円ほどで販売されていて、男性の母親は所有権の一部を相場の10倍ほどで購入させられたことになります。

この部屋は、賃貸物件として第三者に貸し出され、賃料収入として月に2500円ほどが不動産販売会社から母親の口座に振り込まれる契約になっていたということです。

男性は、「300万円は母親が支払える限界に近い金額でした。賃料の収入は少なく、元本の回収には100年かかる計算で、80代の母親が契約するはずがない。犯罪に巻き込まれたんだと思いました」と話しました。

男性は、悪質な販売方法だとして東京都消費生活総合センターや弁護士などに相談。その後、母親が原告となり会社に賠償を求める訴えを起こした結果、330万円の支払いを命じる判決が確定しています。

男性は、「母親は、家に来たのが誰か分からないまま、不動産を買ったという認識もないまま、言いなりになって契約書にサインをしたのかもしれないと思うと本当に許せません。母親は判断能力が落ちていただけで悪いのはそこにつけ込んだ人物です。被害に遭わないように注意するのはなかなか難しいですが、こういうケースがあるんだと知っておいてほしい」と話していました。

対策の1つに「家族信託」も

高齢者の資産管理に詳しい司法書士の杉谷範子さんは、親子間で財産の管理について日頃から話しておくことが大切だとしたうえで、対策の1つとして、「家族信託」「民事信託」と呼ばれる制度を挙げました。

信託法に基づく「家族信託」は、本人が健康なうちに、あらかじめ信頼できる家族や知人と信託契約を結び、金融資産や不動産の管理を任せる制度で、契約内容を公正証書に残しておくことが望ましいということです。

相続や贈与とは異なり、財産の持ち主は親のままですが、子どもの名義で財産を管理するため、悪意を持った人物に狙われた場合でも被害を防げるケースがあるといいます。

杉谷さんは、「家族に限らず、友人や友人の子どもに財産を任せる人もいます。お金を預かっているだけなので手間も少なく、詐欺の被害に遭わないための対策としてはハードルは低いと思います」と話していました。

また、詐欺被害の観点だけでなく、病気で倒れるなどして突然、意思の確認ができなくなる場合も想定されるとして、「お金の話はしづらいかもしれませんが、正月や盆に家族が集まったときに財産の話題を出して、早めに対策を話し合うことも必要だと思います」と話しました。

このほか、家庭裁判所に手続きをして、本人の判断能力が低下したあとに利用する「法定後見制度」などの制度もあり、杉谷さんは本人の希望や生活状況、資産状況などを踏まえ、司法書士や弁護士などの専門家に相談してどの制度を使うべきか、相談してほしいとしています。

認知症の高齢者 118兆円の金融資産保有(試算)

ことし5月に公表された厚生労働省の研究班の推計によりますと、認知症の高齢者は来年、2025年には471万6000人となり、団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年には、584万2000人に上るとしています。

2040年には高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症と推計されています。

民間のシンクタンクが、この推計に加え、総務省や日銀がまとめた世帯ごとの金融資産などの統計をもとに試算したところ、2023年に認知症の高齢者が保有する金融資産は118兆円に上り、今後、高齢化がさらに進むことで2040年には197兆円になると推計しています。

また、認知症の高齢者が保有する住宅は2023年は178万戸と推計していますが2040年には239万戸にまで増えるとしています。

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